講演情報
[SY5-3]補綴前処置としての矯正治療の適応と治療戦略
*犬伏 俊博1,2 (1. 大阪大学大学院歯学研究科顎顔面口腔矯正学講座、2. 大阪大学歯学部附属病院矯正科)
キーワード:
補綴前矯正治療、歯の移動メカニクス、治療戦略
補綴歯科治療の成否は,最終補綴装置の設計や材質のみならず,補綴介入前に歯の位置関係,歯列形態,咬合関係がどこまで整理されているかに大きく依存する.歯の傾斜やスペース不足を伴う状態で補綴処置のみを行った場合,過剰な歯質削除や歯髄侵襲,不自然な補綴形態による清掃性低下,さらには不適切な咬合力の負荷による補綴装置の脱離や歯根破折など,長期的予後に影響する問題を生じる可能性がある.矯正治療は,歯や歯列を移動させることでこれらの問題を構造的に改善し得る補綴前処置であり,歯のアップライトやスペースの適正化,歯肉ラインの改善を通じて,外科的介入や補綴設計の自由度を高め,結果として補綴処置の難易度を低減し得る有効な選択肢である.補綴前処置としての矯正治療は,少数歯の傾斜改善やスペース適正化を目的とした限局矯正治療から,咬合平面や咬合高径の是正を含めた全顎的矯正治療まで,幅広い適応を有する.一方で,歯の移動には生体力学的制約や解剖学的条件が存在し,歯周組織の状態,固定源の設定,移動量や方向の判断を誤ると,歯周組織への過度な負担や補綴計画との齟齬を生じる可能性がある.本講演では,補綴前処置としての矯正治療に焦点を当て,歯の移動メカニクスの基本概念を整理した上で,補綴医が臨床に取り入れやすい矯正的テクニックを紹介する.さらに,本格矯正治療を併用した症例を提示し,補綴治療の質と予知性を高めるための矯正治療の適応と臨床的留意点について考察する.
