【水工学論文集】序文2021

 


土木学会 水工学委員会

 

 序 

 
 第66回水工学講演会の開催(令和3年12月8日~10日)ならびに土木学会論文集B1(水工学)、Vol. 77、No. 2(水工学論文集第66巻)の発刊にあたり、ご挨拶申し上げます。新型コロナウイルス感染拡大防止のため、令和3年度の水工学委員会の主要な行事である河川技術に関するシンポジウム、水工学に関する夏期研修会、水シンポジウムはオンラインでの開催となりました。本年10月以降、新型コロナウイルス感染の収束の兆しが見えつつありますが明確な見通しを得ることが困難なため、本講演会も富山での開催を中止としオンラインでの講演会といたします。現地開催で得られる新たな出会いや気づき、講演会での議論だけでなく休憩時間のちょっとした会話や懇親会での交流など、これらがきっかけとなって次の研究活動に繫がることが多々あると思います。こうした機会を設けることができないことは大変残念ですが、昨年に引き続きオンライン開催となりますことをご容赦くださいますようお願い申し上げます。
 
 新たな水工学委員会で活動を開始して以降、水工学講演会での議論をいかに促進し研究活動のより一層の活性化に結び付けるかについて議論を重ねて参りました。その結果、異なる分野にまたがるセッションを設定して多くの参加者が一堂に会して議論できるセッションを設けること、そのためにパラレルで開催するセッション数をできるだけ減らすこと、をプログラム編成の基本方針とすることにしました。防災・減災に関するセッションは水工学の様々な分野の研究者、技術者が参加し討議することで、これまで気が付かなかった問題点の抽出や問題点解決のための新しいアイデアが生まれます。気候変動適応に寄与する研究や技術開発も然りです。流域治水もまさしく異なる分野の研究者、技術者が知恵を出し合う必要があります。社会の要請による気候変動影響評価や実時間洪水予測の広域化・詳細化によって、日本のすべての河川流域を対象とする降雨流出モデルが開発され、さらに高分解能地形情報の生成や河道断面情報の導入により全国的な水位予測ができるようになってきました。危機管理型水位計の全国的な普及によって多数の地点でそれらの予測結果を評価することが可能です。こうした流域一体型の水工シミュレーションモデルをさらに発展させて、様々な豪雨外力シナリオのもとで、ダムの放流方式の変更や水田貯留が実現したら下流の流量はどう変化するか、それによって河川や氾濫域の水位、氾濫流の流速・流向は流域の様々な地点でどう変化するか、さらに土砂動態、河床変動、流木の発生がどうなるかなど、流域全体の様々な水理量・水文量を同時にかつ一体的に予測して必要となる情報をそこから取り出すといった予測シミュレーションモデルを開発し実現する必要があります。これによって気候変動の様々な外力シナリオのもとで、流域治水の様々なメニューを技術的に検討することができ、適応策に寄与する情報を提供することができるようになります。
 
今回の水工学講演会では、分野横断型の議論を促進するために、採択された論文をもとに分野横断型のセッションを新たに企画します。また、企画セッションの時間帯ではパラレルセッション数を減らし、多くの方々が参加できるようにプログラムを組みました。今回は、1)気候変動下のダム貯水池の治水機能の評価と操作の高度化、2)令和2年7月豪雨からみた水工学的課題の探求、3)水工学における基礎研究と応用研究をつなぐ(乱流編)の三つの企画セッションを立ち上げます。こうした企画が水工学の分野横断の議論を一層進め、異なる分野の研究者・技術者による共同研究グループに発展して、大型研究プロジェクトのきっかけとなることを期待しています。
 
 水工学委員会は、最新の水工技術を体系化し、学会がオーソライズする技術基準書として水理公式集を定期的に更新する使命を持ちます。本委員会の設立当初以来の目的は水理公式集の発刊にあります。流域治水は国だけでなく多くの関係者が参加して様々なメニューを考え知恵を出し合って技術を社会に実装していくことになります。このとき、流域治水の参加者は必ずしも水工学の専門家ではありません。そうした関係者が確かな技術が適用されているかどうかを知る拠り所は、こうした技術基準書に記載された技術かどうかしかありません。気候変動適応や流域治水に適用し得る新しい水工技術を体系化するためには、まずは水工学論文集、土木学会論文集、河川技術論文集、応用力学論文集などに論文が掲載される必要があります。次に、それらの技術の適用を重ね知識を体系化して水理公式集にまとめ上げていくことになります。これらは水工学委員会の最も重要な活動の一つです。現在、水理公式集例題プログラム集の改定が議論されています。数年先には次の水理公式集の内容を検討し始めることになります。講演会ではそういった観点での議論もよろしくお願いします。
 
 特別講演会では、寶 馨先生(京都大学大学院総合生存学館(思修館)教授)に「水工学・水文学のこれまでとこれから」をテーマとしてご講演いただく予定です。治水計画の立案にはこれまで観測データのみが利用されてきました。しかし、気候変動による外力変化を考慮して、国土交通省は降水観測データに加えて気候変動予測シナリオに基づく降水シナリオデータも利用して治水計画を見直すように方向性を大きく転換しました。寶先生は水文頻度解析モデルの適合度評価指標である標準最小二乗基準(SLSC)の開発者であり、それを組み込んだパラメトリックな水文頻度解析手法は、確率水文量の標準的な推定手法として広く用いられています。また、大標本時代の到来を見越してノンパラメトリックな水文頻度解析手法の適用を早くから提唱されました。さらに、確率過程的な実時間流出予測手法や物理的な分布型降雨流出モデルの開発でも先駆的な成果を収められました。これらの技術開発のこれまでの経緯や今後の方向性について、流域治水や気候変動適応と関連してご講演いただく予定です。寶先生は、国連防災の10年(IDNDR)、ユネスコ政府間水文学計画(IHP)、アジア太平洋水文水資源協会(APHW)、地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)などの国際共同研究事業、学協会の運営や大学院における学際的な教育プログラムについても尽力されてきました。それらの経緯や方向性についてもお話しいただけるものと思います。
 
 水工学講演会では優秀な研究成果の顕彰と若い研究者を奨励する目的で水工学論文賞と論文奨励賞ならびにBest International Paper Awardを設けています。令和3年度は、水工学論文集第65巻に掲載された論文の中から水工学論文賞と論文奨励賞、および水工学論文集第66巻に掲載された論文の中からBest International Paper Awardとして、以下の方々とその研究成果に対して賞が授与されることになりました。
 
【令和3年度水工学論文賞】
題目:都市感潮河川におけるスカムの発生・浮遊挙動
受賞者:中谷祐介(大阪大学)・岩岡慶晃(大阪大学)・奥村素生(大阪大学)・西田修三(大阪大学)
 
【令和3年度水工学論文奨励賞】
題目:多点漏水や管固有の構造を有する管水路における圧力波形を利用した漏水検知法
受賞者:浅田洋平(東京大学)
共著者:木村匡臣(近畿大学)・安瀬地一作(農業・食品産業技術総合研究機構)・飯田俊彰(東京大学)
 
題目:小型 SAR 衛星コンステレーションによる河川氾濫域の高頻度観測の可能性
受賞者:北島 夏実(東京工業大学)
共著者: 瀬戸里枝(東京工業大学)・山崎大(東京大学)・Xudong ZHOU(東京大学)・Wenchao MA(東京大学)・鼎信次郎(東京工業大学)
 
【令和3年度Best International Paper Award】
題目:ADVANCES IN THE QUANTITATIVE RISK PREDICTION FOR IMPROVING THE ACCURACY ON THE GUERRILLA HEAVY RAINFALL
受賞者:Hwayeon KIM (Kyoto University)
共著者:Eiichi NAKAKITA (Kyoto University)
 
また、2021年度河川技術に関するシンポジウムでは、2020年河川技術論文賞が以下の方々に授与されました。
 
【令和2年度河川技術論文賞】
題目:気候変動予測情報を用いた極値水文量の統計的推定
受賞者:清水啓太(中央大学)・山田正(中央大学)・山田朋人(北海道大学)
 
 受賞された方々にお祝いを申し上げますとともに、今後のご活躍を祈念申し上げます。
 
 本年度の水工学委員会の活動についてご報告申し上げます。2021年度河川技術に関するシンポジウムが2021年6月10日、11日にオンラインで開催されました。参加者数は702名であり、非常に多くの方々に参加いただきました。第56回水工学に関する夏期研修会もオンライン開催となりました。夏期研修会はこれまでも、講義集の最初の数ページの事前公開や講演スライドの共有などによって講習会の魅力を訴えてきたところですが、オンライン開催は全国からの参加を容易とし204名の方々が参加されました。この参加者数は、ここ数年では最大です。運営にご尽力された四国支部の皆様に感謝申し上げます。水シンポジウムは、一年延期の後、8月26日に群馬県からのオンライン開催となりました。「利根川水源県ぐんまからの発信~歴史、文化、自然の恵みを未来につなぐために~」をメインテーマとし、メインテーマに沿った二つの分科会が実施されました。オンラインの強みを生かし、事前申込数は758名であり、少なくとも502名のオンライン参加がありました。全国からの参加が多数あったことが、これまでにない特徴です。都道府県は流域治水の要となります。それぞれの地域の流域治水に対する取り組みは自ずと水シンポジウムの主要テーマとなりますので、水シンポジウムの成果を全国に発信する意義は一層高くなっていくものと考えます。来年7月の山形県での水シンポジウムはハイブリッド形式にして、リアルタイムで全国に水シンポジウムの模様をお伝えする予定です。国際的な活動としましては、The 3rd JSCE-CCES Joint Symposium of Civil Engineering(第3回日中土木学会ジョイントシンポジウム)が両国の水工学研究者により10月20日、21日にオンラインで開催されました。また、昨年度開始された水工学オンライン連続講演会は継続して実施して参ります。これまでに朝田将様(国土交通省河川計画調整室長)、中村晋一郎様(名古屋大学准教授)、大本照憲様(熊本大学名誉教授)にご講演いただきました。水工学委員会の各部会の活動に着目し、それらの情報共有と相互の活性化が進むように、オンライン講演会と対面形式の講演会を組み合わせて進めて参ります。
 
 令和3年7月、梅雨前線の影響により東海地方から関東地方南部にかけて記録的な豪雨が発生し、熱海市での土砂災害を始めとして狩野川水系や富士川水系では氾濫を伴う洪水災害が発生しました。水工学委員会では、田中博通名誉教授(東海大学)を団長として東海地方の研究者を中心に調査団を組織し、調査を実施中です。令和4年2月9日に開催予定の河川災害シンポジウムにて、調査報告がなされる予定です。
 
 本講演会は、昨年に引き続きオンラインでの開催となります。今年度から論文集のCD配布は廃止し、オンラインで論文閲覧ができるようになりした。これまでJ-Stageで土木学会論文集として公開されるまで一年弱時間を要していましたが、今後は時間をおかず公開される予定です。また、次年度からは査読システムも新たな投稿査読システム(Editorial Manager)に移行予定です。
 
 水工学委員会の活動は極めて多様で活発に運営されています。運営に尽力くださった皆様方に心よりお礼申し上げます。最後になりますが、本講演会が一層活発なものとなりますよう皆様方のご協力をよろしくお願いいたします。
 

令和3年11月     
土木学会水工学委員会
委員長 立川康人

 
 
 

水工学委員会(2021年度~2022年度)

 
【顧問】
中川 一                 (京大防災研)
寶  馨                 (京大防災研)
道奥 康治             (法政大)
中北 英一             (京大防災研)、河川懇談会座長、グローカル小委員会顧問
清水 康行             (北海道大学)
 
【専門委員】17名(定員17名)◎:執行部、◯:幹事、△:オブザーバー
◎立川 康人(京大)        水工学委員長、流域管理と地域計画の連携方策研究委員会座長、COMMON MP技術部会長
◎矢野 真一郎(九州大)                 幹事長、グローカル小委員会顧問
◎溝口 敦子(名城大/東北大災害研)           編集幹事長
◯二瓶 泰雄(理科大)    前幹事長、河川懇談会幹事長、インフラ体力診断小委員会幹事
◯鼎 信次郎(東工大)    水文部会部会長、前編集幹事長
田中 規夫(埼玉大)    基礎水理部会部会長、河道管理研究小委員会委員長、IAHR Japan chapter副支部長
◯竹林 洋史(京大防災研)             環境水理部会部会長
泉 典洋(北大)             水理公式集例題集編集小委員会委員長
◯大石 哲(神戸大)        水害対策小委員会委員長
椿 涼太(名古屋大)    河川観測高度化研究小委員会委員長
手計 太一(中央大)    2021年度水工学講演会担当、水理公式集例題集編集小委員会幹事
森脇 亮(愛媛大)        2022年度水工学講演会担当/2021年度夏期研修会担当
◯内田 龍彦(広島大)    土木学会論文集電子化小委員会副委員長
◯風間 聡(東北大)        COMMON MP幹事長/水シンポ2022山形担当/B編集小委員長
田中 賢治(京大)        水シンポ2021担当
山上 路生(京大)
◯佐山 敬洋(京大防災研)
 
【海岸工学委員会との交換委員】1名(定員外)
△山城 賢             (九州大)
 
【地区委員】33名 (定員33名)(◯印:水工学委員会幹事で20名以内)
<北海道 2名>
 山田 朋人 (北大)
◯岩崎 理樹 (北大)水工オンライン小委員会幹事、水工ML担当、2023年度夏期研修会担当
<東北 2名>
 梅田 信(日本大)        水工学ML担当
◯川越 清樹(福島大)    水シンポ2022山形担当 
<関東 15名>
 宮本 仁志(芝浦工大)                 出版委員会委員
◯芳村 圭(東大)             水シンポ2021群馬担当
 知花 武佳(東大)
◯小田 僚子(千葉工業大)             2022年度夏期研修会担当
 平林 由希子(芝浦工業大)
 田端 幸輔(中央大)    地盤工学委員会 堤防研究小委員会委員会 委員
 朝田 将(国交省)
◯諏訪 義雄(国総研)    河川部会長
 柿沼 太貴(土木研究所(ICHARM))
 佐藤 隆宏(電中研)
 陰山 健太郎(日本工営)
 荒木 千博(建設技術研究所)
 須藤 達美(パシフィックコンサルタンツ)
 大澤 範一(東京建設コンサルタント)
 鈴木 良徳(エイト日本技術開発)
 <中部 3名>
◯戸田 祐嗣(名大)        河道管理研究小委員会幹事長、インフラメンテナンス総合委員会・健康診断小委員会幹事、同委員会・知の体系化小委員会委員
 谷口 健司(金沢大)    水工オンライン小委員会副委員長
 武田 誠(中部大)
<関西 6名>
◯中山 恵介(神戸大)    グローカル小委員会委員長 
 山口 弘誠(京大防災研)
◯入江 政安(大阪大)    海岸工学委員会交換委員、水工オンライン小委員会委員長、2023年度水工学講演会担当
 市川 温(京都大)
◯川池 健司(京大防災研)             IAHR Japan chapter幹事長
 小林 健一郎(神戸大)                 沿岸域における気候変動適応策に関する研究会委員、IAHR Technical Committee on Climate change 委員
<中国 2名>
 赤松 良久(山口大)    環境水理部会副部会長
◯三輪 浩(鳥取大)
 <四国 1名>
◯田村 隆雄(徳島大)    2021年度夏季研修会担当/2022年度水工学講演会担当
<西部 2名>
◯杉原 裕司(九州大)
 重枝 未玲(九工大)    HP担当
<オブザーバー 1名>
◯岡田 将治(高知高専)                 水害対策小委員会幹事長