アゲールシンポジウム

11月30日(月)15:50~17:50
第1会場(メインホール)

水の安定同位体は、水の起源や移動、相変化の履歴を捉えるトレーサーとして、地下水学、水文学、気象学、生態学など幅広い分野で活用されてきた。近年では、観測技術の進歩に加え、水同位体を組み込んだ数値モデルやデータ同化手法の発展により、水循環プロセスの理解から気象・気候の予測、さらには過去の水循環の復元に至るまで、その応用が大きく広がっており、水工学講演会もその発展の一翼を担ってきた。

水工学では、現象のメカニズムが十分に解明されていなくとも、観測結果を再現することが重視されてきたきらいがある。しかし、観測された現象を再現できても、その背後にある過程が正しく表現されているとは限らず、異なる条件下での予測性能が保証されるわけではない。これは、自由度の高いモデルを限られた観測情報で拘束する際に生じる、いわゆる等至性(equifinality)の問題である。水の安定同位体は、ある程度よく理解された同位体分別や輸送の法則に基づき、モデルの自由度を大きく増やすことなく、従来とは独立した拘束条件を与えることができる。この特徴を生かして、従来の観測だけでは識別できなかった水循環過程を明らかにし、モデルの不確実性を低減する研究が、さまざまな時空間スケールで進められてきた。

本シンポジウムでは、こうした特徴を持つ水同位体を活用した水文気象学、地下水学、生態学の研究の進展を振り返るとともに、古気候復元、広域水循環の解明、気象・気候予測などに取り組む若手/中堅研究者から最新の成果と展望を紹介いただく。これらの議論を通じて、水同位体研究の新たな可能性を探るとともに、観測結果の再現にとどまらず、現象のメカニズムを理解することの重要性を改めて問い直し、水工学の枠を越えた水循環科学の今後の方向性を展望する。

テーマ:「水同位体が拓く水循環科学の新展開」
司会:グローカル気候変動適応研究推進小委員会
   委員長 小林 健一郎(埼玉大学) 

・趣旨説明
グローカル気候変動適応研究推進小委員会委員長 小林 健一郎(埼玉大学)


・話題提供
「水工とともに歩んだ同位体水文気象学の進展」
  芳村 圭 氏(東京大学 生産技術研究所 教授)

「トレーサーから読み解く地下水-地表水循環プロセス」
  辻村 真貴 氏(筑波大学 生命環境系 教授
          学際サイエンス・デザイン専門学群(マレーシア校)学群長)

「集水域の同位体環境学」
  陀安 一郎 氏(総合地球環境学研究所 基盤研究部 教授)

「水同位体ISOSCAPEの統合的構築に向けて:研究会の紹介と古気候研究の最新動向」
  木野 佳音 氏(東京大学 生産技術研究所 講師)

「水同位体から読み解く日本の水循環:季節変動から梅雨期の特徴まで」
  田上 雅浩 氏(気象庁気象研究所 気象観測研究部・第一研究室・主任研究官)

「水同位体を用いた気象・気候予測高度化に向けた取り組み」
  岡崎 淳史 氏(千葉大学 環境リモートセンシング研究センター (CEReS) 准教授)

・総合討議