講演情報

[EL2]症例とエビデンスから学ぶ大腸ESD:安全で確実な治療のコツ

斎藤 豊, 高丸 博之, 豊嶋 直也, 関口 正宇, 水口 康彦, 山田 真善 (国立がん研究センター中央病院内視鏡科)
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1.はじめに
治療前に拡大を用いたImage-enhanced endoscopyで部位とスコープの操作性,発育進展を含めた肉眼形態,JNET分類,Pitパターンの精査が必須である.JNET分類でType 2Bを呈する病変はT1癌の可能性もあり,クリスタルバイオレット染色を追加しESD適応を判断する.
2.ESDの手順
反転を組み合わせた通常法ESDを紹介する.大腸では全周切開せず部分切開⇒粘膜下層(SM層)の剥離⇒部分切開追加⇒SM層の剥離の手順を繰り返す.反転が可能な場合は最初に反転で口側を可及的に切開・剥離する.反転の利点はスコープ操作が安定することと,SM層に水平にアプローチできる点である.反転でESDを行っていると,時間経過とともに反転がきつくなる場合があるので,その場合は反転を解除し順方向でのESDへと移行する.
3.Pocket Creation Method(PCM)/Bridge Formation Method(BFM)
順方向メインでトンネル法の亜型としてPCMやBFMを使用する頻度が増えている.BFMの利点は,反転が難しい場合でも適用できること,また両サイドを最後まで切開しないことで,自然なトラクションが病変に最後までかかり,繊維化や,筋層牽引所見などのESD困難例にも対応できることである.
4.トラクション法/Water pressure法 Underwater ESD
BFMに加えSOクリップなどを使用したトラクション法,浸水下やWater jetの浮力を利用したUnderwater ESDやWater pressure methodなども有用性が報告されている.
5.組織評価
大腸ESDは早期がんが対象であり,一括切除後の詳細な組織評価が重要となる.病理医には内視鏡画像と切除切片を対比し,癌あるいはSM浸潤などの関心領域に正確に割が入るよう内視鏡医が切り出しを行うか,病理医に情報をしっかり伝えることが重要である.
大腸癌治療ガイドライン2024年度版では深部断端陽性(浸潤部)は外科手術を強く推奨し,①SM浸潤距離1000μ以深②低分化腺癌③脈管侵襲陽性④BD2/3のいずれかを認めた場合は外科手術を弱く推奨するとしている.
SM浸潤距離因子以外の因子が陰性であれば,最近の欧米では転移リスクがかなり低いため追加手術を回避する方向に向かっているが,注意が必要である.大腸癌研究会の最新のプロジェクトでは4673例の大腸T1癌の国内多施設研究から,SM浸潤距離2000μm以深が最もリンパ節転移リスクのオッズ比が高いという結果であった.SM浸潤距離が増せば脈管侵襲の頻度も増える可能性がある.今後のValidation研究が望まれる.
6.おわりに
大腸ESDは長期予後も良好なことが多施設前向きコホート研究(CREATE-J)で証明され,フランスからもランダム化比較試験においてESDのEMRに対する有意に良好な成績が報告されている.今後大腸ESDは日本のみならず海外でも益々普及してくるであろう.