講演情報

[EL4]肛門・直腸の性感染症

森 信好 (聖路加国際病院感染症科)
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性感染症(STI)の罹患率は,HIV感染者,男性と性交渉を持つ男性(MSM),および複数の性的パートナーを持つ人々の間で増加している.特に,HIV感染予防のための曝露前予防薬(PrEP)の普及は,性行為に関連する感染リスクの上昇と密接に関連している.これらの感染症を正しく認識することは,個々の患者への対応のみならず,公衆衛生全体においても非常に重要である.
さらに,肛門・直腸のSTIは主に肛門性交歴のある患者に発症し,消化器内科・消化器外科専門医に紹介されることが多い疾患である.最も頻繁に確認される病原体には,淋菌,クラミジア・トラコマティス,単純ヘルペスウイルス,トレポネーマ・パリダム(梅毒)などが含まれる.また,マイコプラズマ・ジェニタリウムや,最近MSMの間で増加しているmpox(旧称:サル痘)も見逃すことはできない.さらに,ヒトパピローマウイルス(HPV)感染による肛門がんや尖圭コンジローマも臨床的に重要な問題である.
日本では,非感染症専門医には馴染みの薄いHIV感染症も,肛門・直腸STIと密接に関連している.STIが存在するだけでHIV感染リスクが増加することは広く知られているが,逆にHIV感染があると他のSTIの進行が早まることも理解する必要がある.
本講演では,見逃されがちな肛門・直腸STIについて,疫学,症状,診断,治療,予防の実践的な側面を網羅的に解説する.
本講演の目的は以下の通りである.
 • STIの種類と一般的な症状の理解
 • 肛門・直腸STIを疑うための手がかりと診断方法の習得
 • 治療法と予防策の習得