講演情報
[R8-1]家族性大腸腺腫症サーベイランス中のdrop outは異時性発癌のリスクである 多施設共同後ろ向き観察研究
立田 協太1, 美甘 麻裕1, 岡本 和哉2, 原田 岳3, 岩瀬 友哉1, 高木 徹1, 杉山 洸裕1, 小嶋 忠浩1, 赤井 俊也1, 鈴木 克徳1, 鳥居 翔1, 倉地 清隆1, 竹内 裕也1 (1.浜松医科大学外科学第二講座, 2.藤枝市立総合病院外科, 3.浜松医療センター外科)
【緒言】家族性大腸腺腫症(FAP)は,消化管その他の臓器に様々な腫瘍性および非腫瘍性の随伴病変が発生するため,生涯のサーベイランスが必要となる.しかし,本邦におけるFAPサーベイランス現状は明らかではない.本研究は,リアルワールドデータを用いて,本邦のFAPサーベイランス状況を明らかとし,サーベイランス期間内におきるdrop outの影響について解明する事を目的とする.【方法】静岡県内の日本外科学会指定関連施設及び,日本消化器病学会認定施設である12施設から登録されたFAP症例の内,データ欠損症例を除いた84症例(62家系)を解析した.【結果】FAP診断時の年齢中央値は32歳,男性 41例,女性 53例であった.82.1%の症例が大腸切除を施行した.サーベイランス継続率は,10年:94.86%,20年:86.04%であった.drop outは,7例(8.33%)に認めた.drop outの有無(D群:drop out vs N群:非drop out)で2群に分けると,年齢・性別・家族歴・腺腫密度・遺伝子検査結果などの患者背景に差は無かった.D群のdrop out前の上部消化管内視鏡検査,下部消化管内視鏡検査,画像検査施行間隔は,それぞれ1.86年/回,1.29回/年,1.18回/年であり,N群と差は認めなかった.drop outを予測する因子を多変量解析したが,明らかな因子の同定は出来なかった.D群の詳細をみると,drop out時の年齢中央値は44歳で,drop out期間中央値は11年であった.全例サーベイランスに復帰しているが,6例に肛門痛や便潜血などの症状を認めた.サーベイランス復帰時の精査で,4例に異時性発癌を認め(異時性大腸癌:3例,パウチ発癌:1例),N群と比較して有意に多かった(D群:71.43%,N群:12.99%,P<0.01).drop outが与える影響を多変量解析すると,drop outは異時性発癌の独立したリスク因子である事が分かった.その他のFAP関連悪性腫瘍に関しては,drop outの影響は認められなかった.【考察】本研究におけるFAPサーベイランス継続率は10年94.86%であり,海外におけるFAPサーベイランス継続率(10年32.7%)と比較して,極めて良好であった.drop out症例は全体の8.33%であったが,drop out期間に異時性発癌を認める事が多く,サーベイランス継続の重要性を痛感させられた.