講演情報
[VPD1-2]III型痔瘻(坐骨直腸窩痔瘻)に対する治療戦略:後方正中アプローチによる標準手技について
赤瀬 崇嘉, 栗原 浩幸, 藤井 頼孝, 木村 壮伸, 森山 穂高, 金井 忠男 (所沢肛門病院)
【はじめに】痔瘻治療で求められることは根治性と機能温存である.III型痔瘻手術では原発口から原発巣である後方深部隙(posterior deep space:以下PDS)を確実に処理すること,恥骨直腸筋や深・浅外括約筋及び内括約筋の損傷を最小限にすることが同時に求められる.後方正中アプローチはこの条件を満たす最適な術式である.【病態】III型痔瘻は二次瘻管の進展形式により様々な形態をとるが,原発口から原発巣までの進展形式はほぼ共通しており,6時方向の肛門陰窩を原発口とし,一次瘻管は原発口から原発巣まで内括約筋を斜走するように頭側に向かいPDSに原発巣を形成している.二次瘻管は原発巣から側方の低位・高位坐骨直腸窩に進展する.【手術手技】後方正中に尾骨から肛門縁までドレナージが十分に効く皮膚切開をおく.次に浅外括約筋を縦方向に分けるように鋭的に切離してゆくと横方向に走る深外括約筋に到達する.ここで深外括約筋の一部を切離しPDSに直視下に到達する.直腸肛門角を形成するものは腱様の恥骨直腸筋であり,示指で直腸肛門角を確認しつつ処理すれば恥骨直腸筋が温存できる.原発巣であるPDSに到達すると不良肉芽が確認出来る.これを指標に原発巣を開放する.次に一次瘻管と原発口の処理を行う.一次瘻管が正確に処理されないと再発につながるので注意が必要である.原発巣から原発口を手前側に開放することで,一次瘻管の開放と歯状線より頭側の内括約筋の温存が可能になる.内括約筋を斜走する一次瘻管の開放は繊細な手技が求められ,そのためには後方正中アプローチが不可欠と考える.これにより禁制を保持し根治性の高い手術が可能となる.二次瘻管については適宜処理する.【成績】2016/1から2022/12末までに本術式で行われた241例のうち難治創7例(2.9%),再発3例(1.2%),Wexner Scoreは0点237例,1点4例(ガス失禁)であった.【結語】PDSに直視下に到達する後方正中アプローチは,原発口,一次瘻管及び原発巣を確実に処理出来るため高い根治性が得られ,恥骨直腸筋や歯状線より頭側の内括約筋を温存できるので機能温存も期待できる術式と考える.