講演情報

[R20-1]直腸重積によって脱出腸管の虚血性変化を生じた直腸脱の一例

久能 英法, 小野 朋二朗, 内海 昌子, 三宅 祐一朗, 安田 潤, 相馬 大人, 根津 理一郎, 弓場 健義, 齋藤 徹 (医療法人伯鳳会大阪中央病院外科)
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直腸脱は肛門外に直腸の全層が反転脱出した状態であり,その発症頻度は直腸肛門疾患総数の1%以下とされるが,血流障害に至る症例は稀である.今回,我々は,直腸重積によって虚血性変化をきたした直腸脱に対し,ハルトマン手術を施行した症例を経験したので,報告する.
症例は70歳代女性.3ヶ月前から持続する脱肛と便失禁を主訴に,当院外来を紹介受診された.初診時点では肛門縁から7cmの完全直腸脱を認めた.併存症にParkinson病と円背がある事,ご本人が全身麻酔下の手術に抵抗を示した事から,経会陰的直腸脱手術の方針とした.しかし手術目的に入院した際,直腸脱の脱出腸は20cmと外来時点よりも脱出長の増大を認め,脱出した腸管先進部粘膜面は暗紫色に変化し血流障害が示唆された.経会陰的手術は中止し,絶食補液管理下に全身状態の評価を行った.肛門括約筋のトーヌスは低く,脱出腸管の還納は可能であったが,脱出腸管先端の血流障害は徐々に拡大した.血流障害精査目的に腹部造影CTを施行したが,虚血の原因となりうる腸間膜の血流障害やS状結腸軸捻転は認めなかった.虚血の原因が不明であること,脱出腸管の血流障害が拡大し腸管浮腫も著明であることから,虚血腸管の切除を優先し,ハルトマン手術を行う方針とした.全身麻酔下に腹腔鏡下ハルトマン手術を施行した.脱出腸管を腹腔内に還納し観察すると,直腸上部で直腸重積を認めた.直腸重積部は炎症性に肥厚・癒着し,重積の解除は困難であった.腸間膜の陥入や軸捻転は認めず,直腸重積が原因となって血流障害を来しているものと考えられた.腹腔内でS状結腸を離断,切除したS状結腸肛門側から直腸重積部までを肛門外に反転脱肛し,肛門直上で切除した.S状結腸で人工肛門を増設し手術を終了した.術後経過は良好で術後27日目にリハビリ病院へ転院となった.虚血性変化を伴った直腸脱を認めた場合は,直腸重積による血流障害の可能性も念頭におくべきと考えられた.