講演情報

[SY1-6]潰瘍性大腸炎関連癌に対する大腸全摘術の長期予後への影響

清島 亮1, 岡林 剛史1, 奥居 潤1,2, 佐藤 泰憲2, 茂田 浩平1, 北川 雄光1, 石原 聡一郎3, 味岡 洋一4, 杉原 健一5 (1.慶應義塾大学医学部一般・消化器外科, 2.慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学教室, 3.東京大学腫瘍外科, 4.新潟大学大学院医歯学総合研究科分子・診断病理学分野, 5.東京科学大学)
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【背景】大腸全摘術は潰瘍性大腸炎関連癌(UCAN)に対する標準治療と考えられているが,症例数の多い大規模研究からの裏付けとなる証拠は限られている.今回,全国規模のデータベースを用いてUCANに対する大腸全摘術の長期予後への影響を評価した.
 【方法】大腸癌研究会参加の43施設から1983年から2020年までに消化管癌と診断された潰瘍性大腸炎(UC)患者879例のデータを対象とし,大腸全摘術(total proctocolectomy,TPC),大腸亜全摘術(subtotal colectomy,SC),結腸部分切除術(partial colectomy PC)の各術式間で長期予後を比較した.さらにUCANとsporadic cancerの違いを検討するため,病理診断に関するサブグループ解析を行った.
 【結果】術式の内訳はTPC:763例,SC:45例,PC:71例であった.TPCとSCの5年overall survival(OS)率およびdisease free survival(DFS)率は同程度であり(OS:91.9% vs. 88.6%,DFS:87.8% vs. 83.9%),PC(OS:85.4%,DFS:72.0%)よりも高かった.UCANとsporadic cancerそれぞれにおける予後を比較すると,異なる傾向が見られた.TPC+SCはUCANに対しては有意に予後良好であった[OS:92.0% vs. 68.0%(p<0.001),DFS:88. 0% vs. 51.1%(p<0.001)]が,sporadic cancerに対しては差が見られなかった[OS:83.2% vs. 94.2%(p=0.300),DFS:74.4%vs. 85.9%(p=0.200)].多変量解析でもUCANにおいてのみ,PCと比較してTPC+SCがOS[ハザード比(HR)=0.185,95%CI:0.082-0.416,p<0.001]およびDFS[HR=0.148,95%CI:0.081-0.268,p<0.001]ともに有意に良好な予後を示した.
 【結論】腫瘍学的観点から,UCANに対する標準術式は大腸全摘とすべきことを強く支持する結果であった.一方で,sporadic cancerには部分切除が許容され得ることも示唆する結果であった.正確な術前診断,特にUCANとsporadic canerの鑑別は,最適な術式を決定するために重要であると考えられた.