講演情報

[R15-2]大建中湯及びその成分のイヌ内肛門括約筋に対する作用

佐々木 俊信1, 服部 智久2, 前田 耕太郎3 (1.株式会社ツムラ国際開発部, 2.青森大学薬学部, 3.湘南慶育病院)
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【背景】漢方薬である大建中湯(DKT)には便失禁症状に対する有用性が報告されている(Abe T, JARC 2019, Shimazutsu K, JARC 2022).そこで我々は,DKTならびに有効成分の覚醒下イヌ内肛門括約筋(IAS)収縮に及ぼす直接的な効果を検証した.また,DKTが有するその他のメカニズムに関連する総合的な作用について考察する.【方法】雄性ビーグル犬のIAS表面にフォーストランスデューサーを装着し,覚醒条件下でのIAS収縮反応をテレメトリー法により連続的に測定した(DKT投与群,対照群各3例).DKTは1.5 g/5 mL/body直腸内投与とした.収縮作用は収縮波形の曲線下面積(AUC)で評価し,投与後のAUCを両群で比較した.またDKTの主要成分であるhydroxy-α-sanshool(HAS)とhydroxy-β-sanshool(HBS)についても同様,直腸内投与によるIAS収縮反応を評価した.【結果】DKTにより投与後速やかにIASが収縮し,約1時間継続したのち作用が消失した.次いで,DKTの主要成分であるHASおよびHBSの作用を検討した結果,HBS投与群ではIASの収縮傾向が観察されたが,DKTほどの作用は見られなかった.【考察】これまでの臨床研究においてDKTには直腸感覚や肛門静止圧を上昇させる傾向がある事が報告されている(Iturrino J, Aliment Pharmacol Ther 2013).またDKTの成分であるsanshool類はTRPチャンネルに対する刺激作用を有し,この作用を介して消化管収縮を惹起することも知られている(Kubota K, Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol 2015).Sanshoolの一種であるHBSの直腸内投与によりIAS収縮が生じたことから,DKTのIAS収縮作用にHBSが関与する可能性が示唆された.一方で,便失禁の発症にはIASの機能低下以外に多くの要因が関与しており,IAS収縮作用のみでDKTの有効性を説明することはできない.DKTが持つ直腸感覚亢進作用(Iwai N, Eur J Pediatr Surg 2007)や,腸内細菌叢に対する作用(Hasebe T, Pharmacol Res Perspect 2016)など,DKTが示す臨床効果はいくつもの作用の複合的な関与によるものと想定される.本発表ではさらに掘り下げて考察したい.