講演情報

[VWS3-3]当院の直腸脱に対する筋膜構造に留意した腹腔鏡下直腸固定術の検討

加藤 久仁之1, 西成 悠2, 加藤 典博1 (1.ふるだて加藤肛門外科クリニック, 2.盛岡赤十字病院外科)
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【はじめに】直腸脱は高齢化社会に伴い症例数は増加傾向である.近年,直腸脱に対し腹腔鏡下手術が施行され,その有用性が報告されている.当院では直腸脱に対し根治性および低侵襲,拡大視効果によって直腸癌手術における筋膜構造に留意した,自律神経温存を目的として腹腔鏡下手術を第一選択としている.今回,当院で施行した腹腔鏡下直腸固定術の手術手技と治療成績を検討した.【対象】2013年4月~2024年3月までに,日本内視鏡外科学会技術認定医の同一術者が執刀した腹腔鏡下直腸脱手術35例中,緊急手術症例3例を除外した腹腔鏡下直腸固定術(Wells法)32例を対象とした.年齢61~99(平均80.5)歳.男性:女性=6:26.BMI 17.4~35.0(平均22.1).ASA-PS 1:2:3:4=2:17:12:1.15例に開腹既往を認めた.腸管脱出長4.5~12.0(平均7.2)cm.直腸脱手術後の再発症例は7例であり,うちGant-Miwa+Thierschが5例,ALTAが1例,腹腔鏡下手術が1例であった.【手術手技】岬角の高さより直腸間膜を切開し,直腸癌手術におけるtotal mesorectal excisionの層で自律神経を温存しつつ,肛門管直上まで直腸を全周性に剥離受動する(子宮を有する症例は前壁の剥離を現在は行っていない).下腹神経前筋膜と直腸固有筋膜の間を剥離することで,自律神経を膜に覆われた状態で温存することが可能となる.仙骨前面にメッシュをステープラーで固定し,2/3周性に直腸に巻き付ける形で縫合固定する.メッシュと小腸の癒着を防止するために,間膜を縫合閉鎖し腹膜翻転部も再形成し手術を終了する.【結果】手術時間90~208(平均167.6)分,出血量1~15(平均3.9)ml,開腹移行症例は認めなかった.経口摂取開始1~3(平均2.0)日,術後在院日数3~20(平均7.0)日.術後合併症は腹壁瘢痕ヘルニア嵌頓が1例,肺炎が1例であり,手術関連死亡はみられなかった.術後再発症例も現在まで認めていない.【考察】直腸脱に対する腹腔鏡下直腸固定術は,全身麻酔のリスクは伴うものの,根治性および低侵襲性の双方を担保できる有用な術式と考える.筋膜解剖を意識し適切な剥離層を選択することで,自律神経の温存が可能と考える.