講演情報

[R18-5]異時性多発壁内転移を口側に認めた直腸癌の1例

吉田 祐一1,2, 宮岡 陽一1, 横山 良司1, 中野 詩朗1, 岩口 佳史2, 市原 真2 (1.網走厚生病院外科, 2.札幌厚生病院病理診断科)
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【緒言】
大腸癌の壁内転移の報告は散見され,原発巣の比較的近くに同時性に認めるものと,異時性に再発病変として発見されるものがあるが,多くは肛門側への転移であり,口側への異時性転移は極めて稀である.今回われわれは直腸S状部癌術後1年で異時性に口側断端へ多発壁内転移をきたした1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.
【症例】
54歳,女性.食思不振およびイレウス症状を主訴に当院を受診した.大腸内視鏡検査にて直腸S状部に全周性の2型腫瘍を認めた.全身検索では遠隔転移はなく,腹腔鏡下高位前方切除術(D3郭清,DST吻合)を施行した.病理結果はtub2>tub1>por,Ly0,V1a,PM0(80mm),DM0(20mm),T3N0M0. pStageIIa.であった.術後補助化学療法としてUFT/UZELを開始したが,副作用が強く1コースで中断となり,その後,経過観察していた.術後1年の採血にてCEA,CA19−9の上昇を認めた.CTでは明らかな再発所見は認めなかったが,大腸内視鏡検査で吻合部口側に15mm大の粘膜下腫瘍様隆起病変とその口側に発赤病変を認めた.生検はtub1,porであり,粘膜面には非腫瘍性の陰窩が認められ,粘膜下層に腫瘍が分布しており壁内転移が疑われた.PET-CTではS状結腸に2箇所の集積を認めたほか,内腸骨動脈近傍のリンパ節が腫大していた.遠隔転移は認めず,腹腔鏡下低位前方切除術(D1郭清,DST吻合)および腫大リンパ節摘出術を施行した.手術時間は3時間59分,出血は少量であった.特記すべき合併症なく術後11日目に退院した.病理診断ではいずれの腫瘍も粘膜下主体で存在し,組織像はいずれもtub2>tub1>por2であり,先回の腫瘍に類似していたため,壁内転移と診断した.
【考察】
本邦での異時性の壁内転移の報告は6例のみであり,進展経路としてはリンパ管侵襲よりも静脈侵襲陽性例のほうが多い傾向を認めた.予後に関しては症例が少なく検討がなされていないため,今後症例の集積をしていくことが重要であると思われる.
【結語】
異時性多発壁内転移を口側に認めた直腸癌の1例を経験した.