講演情報
[R8-2]当科での高頻度マイクロサテライト不安定性大腸癌におけるリンチ症候群診療の現状
庄中 達也1, 谷 誓良1, 武田 智宏1, 渡部 大成1, 水上 奨一朗1,2, 大谷 将秀1, 大原 みずほ1, 長谷川 公治1, 田邊 裕貴3, 蒔田 芳雄3, 谷野 美智枝4, 横尾 英樹2 (1.旭川医科大学外科学講座消化管外科学分野, 2.旭川医科大学外科学講座肝胆膵・移植外科学分野, 3.旭川医科大学病院遺伝子診療カウンセリング室, 4.旭川医科大学病院病理部)
<緒言>当科では以前よりリンチ症候群が疑われる症例においてのみマイクロサテライト不安定性検査(MSI検査)を行っていたが,2021年より大腸癌原発巣切除症例には原則全例にMSI検査を実施してきた.<目的>当院で施行された高頻度大腸癌を検討し,その中でリンチ症候群患者の臨床上の問題点を明らかにする.<方法>2013年1月~2023年12月末までにMSI検査が施行された大腸癌原発巣切除症例376例に対しカルテを用い後方視的に検討した.全例調査を行う2020年以前の症例(95例)と2021年以降の症例(281例)に分けて検討した.<結果>全症例の年齢の中央値は70(30-93)歳,性別は男性218例,女性158例であった.MSI-Hであった症例は28症例(7.5%)で,うちリンチ症候群の確定診断に至ったのは11例(2.9%)であった.2020年までの症例では8例がMSI-Hで,5例(5.2%)でリンチ症候群の診断に至った.2021年以降では20例がMSI-Hで,6例でリンチ症候群の診断(2.1%)に至った.年齢は40-66歳でユニバーサルスクリーニング対象症例であった.2013年~2020年までに当院で行った大腸がん手術は1038例で2021年以降と同様の頻度でリンチ症候群があったとすると21.8例があったことが推定された.リンチ症候群における異時性重複癌発症例は8例(72.7%)であった.内訳は異時性大腸癌4症例5例,子宮体癌3例,卵巣癌2例,腎盂癌,胃癌,肝細胞癌各1例であった.現時点でリンチ症候群症例は適切なフォローにより癌による死亡例は認めていない.<考案>大腸癌手術患者へのユニバーサルスクリーニングはリンチ症候群の発見に有効であると思われる.また,リンチ症候群での異時性多発癌は高頻度で発症することを念頭に置く必要がある.<結語>ユニバーサルスクリーニングでリンチ症候群を診断し,適切にフォローすることでリンチ症候群患者の予後改善が期待できる.