講演情報

[R17-3]授乳中患者の肛門手術の特徴と留意点

那須 聡果 (ウィメンズクリニック浦和)
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(はじめに)肛門科女性外来に伴い女性患者の手術希望者も増加傾向にある.一般的には妊娠/授乳中患者においては,よほどの理由がない限りその期間に積極的に手術を行うことはないが,当院では授乳中患者の手術希望者が多く,今回,特徴と留意点について発表する.
(対象・方法)2023/1~2023/12に施行した肛門手術545例のうち,授乳中患者20例を後方視的に検討する.
(結果)術式(主病名)の内訳:痔核(スキンタグ含む):11例(55%),裂肛(肛門ポリープ・見張りイボ併発含む):5例(25%),粘膜脱:4例(20%).手術希望の主な理由:「育児休暇中に手術を済ませたい」:18例(80%),「症状が強い」:2例(10%).麻酔方法:局所麻酔+静脈麻酔:17例(85%),局所麻酔のみ:3例(5%)
(考察)授乳中においては手術時麻酔薬や術後鎮痛剤の制限がある他,内痔核治療法研究会のマニュアル(改定第2版2023年)では「授乳を中止してALTA療法を行った場合,授乳は2ヶ月後以降の再開」が推奨されている.しかし現実的には2ヶ月断乳の後,授乳を再開するのは,授乳量の低下による母乳の枯渇や乳頭混乱などからほぼ不可能であり,実臨床ではALTAを使用する場合は「授乳中止後投与,2ヶ月後に再開」を前提ではなく,完全に卒乳してからの手術が望ましいかもしれない.また次の妊娠の予定がある患者には授乳中と言えども妊娠のリスクはあるので,ALTA投与の際には避妊を念押しする必要がある.また育児で多忙であり患者自身のこと(排便管理)は後回しになる傾向があることや,抱っこによる腹圧で創部に負担がかかることなどから,本来は手術を受けるベストなタイミングではない.そのような説明を重ねても復職の前に手術を済ませたいという強い意志を持った患者は非常に多い.幼児を抱えているため入院困難という理由で日帰り手術の強いニーズもある.粘膜脱による不快感や授乳による硬便から裂肛が悪化したことによる疼痛が強い症例の存在も特徴的である.(まとめ)女性の社会進出に伴い復職前に手術を終えたいと考える患者は今後も増えていくと思われる.授乳中の留意点を把握し患者に適切な説明を行うこと,ALTAの使用についてもタイミングを熟考し手術を予定することが必要である.