講演情報
[O2-2]難治性炎症性腸疾患患者の心理的寛解予測に有用なバイオマーカー探求への挑戦
守屋 圭, 永松 晋作, 西尾 勇哉, 塩谷 一樹, 末岐 綾菜, 山本 千紗, 米田 裕亮, 松浦 恭平, 菊川 翔馬, 藤本 優樹, 賀屋 大介, 中西 啓祐, 松尾 英城, 上嶋 昌和 (奈良県総合医療センター消化器内科)
【背景と目的】近年,炎症性腸疾患(IBD)に対して複数の治療薬が使用可能となり,腸炎症状等の身体的改善だけでなく患者生活の質(QOL)の改善についても数多くの報告があるが,IBD患者の精神的健康は臨床的寛解達成後も健常人より劣るとされる.我々は,潰瘍性大腸炎(UC)患者の精神的傷害度を客観的に評価・推定可能なバイオマーカー探求を目的として以下の検討を行った.
【対象と方法】対象はフィルゴチニブ(FLG)で治療した当院の難治性UC患者28名.他疾患で既に精神的抑うつ病状との関連が報告されている各種血液生化学検査値(亜鉛,HDLコレステロール,25水酸化VitD)および脳由来神経栄養因子(BDNF)と,寛解導入前後で実施したIBD患者用QOL質問票(IBDQ)の心理尺度(8-56点)の関係性を検討した.IBDQの構成4要素(腸管,全身,社会,心理)合計の臨床寛解基準が170点であるため心理尺度寛解基準を42.5点に定め,統計学的有意水準はp=0.05とした.
【成績】FLG治療介入3ヶ月間(服薬アドヒアランスは全例100%)で,pMayoスコア(前中央値5.0/IQR 5.0-6.0,後1.0/0.0-2.0)と心理尺度(前36.0/IQR 27.0-41.3,後46.5/43.0-51.3)はいずれも有意に改善し,血清亜鉛濃度μg/dL(前70.0/IQR 54.0-78.0,後77.5/67.8-88.0)とHDL mg/dL(前52.5/IQR 41.5-58.3,後73.0/61.0-81.3)およびBDNF ng/mL(前18.6/IQR 15.3-24.5,後23.7/17.7-27.0)は介入後に有意に増加したが,25水酸化VitD ng/mL(前16.8/IQR 10.9-20.3,後17.0/15.0-22.4)に有意な変化は見られなかった.なお,他のIBDQ尺度要素に比して心理尺度の改善幅(中央値変化量比較)は最小であった(腸管:15.5,全身:13.5,社会:16.5,心理:10.5).心理的寛解達成に関してロジスティック回帰分析を行うと,Cut off亜鉛濃度61.0 μg/dLで感度91.7%,特異度43.8%,AUROC 0.66(p=0.060),同HDL 61.0 mg/dLで感度70.8%,特異度66.7%,AUROC 0.67(p=0.058),同BDNF 20.5 ng/mLで感度68.2%,特異度64.7%,AUROC 0.67(p=0.040)であった.
【結論】治療介入後早期での改善幅が乏しいUC患者の心理的復調を簡便で客観的に推測可能なバイオマーカーとして,血清BDNF値と亜鉛値およびHDLコレステロール値が有用となる可能性が示唆された.
【対象と方法】対象はフィルゴチニブ(FLG)で治療した当院の難治性UC患者28名.他疾患で既に精神的抑うつ病状との関連が報告されている各種血液生化学検査値(亜鉛,HDLコレステロール,25水酸化VitD)および脳由来神経栄養因子(BDNF)と,寛解導入前後で実施したIBD患者用QOL質問票(IBDQ)の心理尺度(8-56点)の関係性を検討した.IBDQの構成4要素(腸管,全身,社会,心理)合計の臨床寛解基準が170点であるため心理尺度寛解基準を42.5点に定め,統計学的有意水準はp=0.05とした.
【成績】FLG治療介入3ヶ月間(服薬アドヒアランスは全例100%)で,pMayoスコア(前中央値5.0/IQR 5.0-6.0,後1.0/0.0-2.0)と心理尺度(前36.0/IQR 27.0-41.3,後46.5/43.0-51.3)はいずれも有意に改善し,血清亜鉛濃度μg/dL(前70.0/IQR 54.0-78.0,後77.5/67.8-88.0)とHDL mg/dL(前52.5/IQR 41.5-58.3,後73.0/61.0-81.3)およびBDNF ng/mL(前18.6/IQR 15.3-24.5,後23.7/17.7-27.0)は介入後に有意に増加したが,25水酸化VitD ng/mL(前16.8/IQR 10.9-20.3,後17.0/15.0-22.4)に有意な変化は見られなかった.なお,他のIBDQ尺度要素に比して心理尺度の改善幅(中央値変化量比較)は最小であった(腸管:15.5,全身:13.5,社会:16.5,心理:10.5).心理的寛解達成に関してロジスティック回帰分析を行うと,Cut off亜鉛濃度61.0 μg/dLで感度91.7%,特異度43.8%,AUROC 0.66(p=0.060),同HDL 61.0 mg/dLで感度70.8%,特異度66.7%,AUROC 0.67(p=0.058),同BDNF 20.5 ng/mLで感度68.2%,特異度64.7%,AUROC 0.67(p=0.040)であった.
【結論】治療介入後早期での改善幅が乏しいUC患者の心理的復調を簡便で客観的に推測可能なバイオマーカーとして,血清BDNF値と亜鉛値およびHDLコレステロール値が有用となる可能性が示唆された.