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[PD1-4]肛門近傍の下部直腸癌に対する腹腔鏡下括約筋温存手術後の晩期吻合部合併症の実態と永久ストーマとの関連

下村 学1, 吉満 政義2, 大段 秀樹1, 塚田 祐一郎3, 伊藤 雅昭3, 渡邉 昌彦4 (1.広島大学病院消化器外科, 2.広島市立広島市民病院外科, 3.国立がん研究センター東病院大腸外科, 4.北里大学北里研究所病院下部消化管外科)
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背景:
 肛門近傍の下部直腸癌に対する括約筋温存手術は,縫合不全(AL),吻合部狭窄などの吻合部合併症の発生が課題である.術後30日以降に発生する晩期吻合部合併症は,時に治療に難渋し永久ストーマの原因となるが,実態は明らかでないことが多い.
 対象と方法:
 本研究は,肛門近傍(AV5cm以下)のcStageI下部直腸癌に対する腹腔鏡下手術の手術成績を検討した前向き第II相試験(Ultimate trial)の副解析として実施した.Ultimate trial登録症例から,括約筋温存手術を実施した278例(低位前方切除(LAR):106例,括約筋間直腸切除(ISR):172例)を対象とし,主な晩期合併症であった吻合部狭窄,瘻孔性合併症,腸管脱に着目してその臨床的特徴,危険因子の検討を行い,更に永久ストーマとの関連を調査した.
 結果:
 吻合部狭窄は27例(9.7%)に発生した.Grade3以上は21例(77.8%)で,発生の中央値は術後274日(70-1226日)だった.吻合部狭窄発生は,早期ALのみが独立した危険因子だった(p=0.004).
 晩期瘻孔性合併症は5例(1.8%)に認め,1例で直腸膀胱瘻を伴い,2例は狭窄を合併していた.全例がGrade3以上だった.
 永久ストーマは観察期間中に18例(6.4%)に必要となり,このうち10例は吻合部狭窄か瘻孔形成に起因し,その他の原因は患者希望3例,再発3例,死亡2例だった.永久ストーマ発生は,腫瘍下縁からAVまでの距離が短いこと(P=0.004)と,晩期的な狭窄か瘻孔の存在(p<0.0001)が独立した危険因子だった.
 腸管脱の発生は8例(3%)であり,Grade3以上が7例で,全例Delorme手術が施行されていた.発生の中央値は221日(122-725)で,ISR(p=0.05)と脾弯曲の脱転(p=0.003)が独立した危険因子だった.
 考察:
 晩期吻合部狭窄,瘻孔は,早期ALにしばしば続発し,時に難治性で永久ストーマの重要な一因になる.腸管脱はISRに特徴的な吻合部合併症であり,過度な腸管の受動が原因になりうる.