講演情報

[P13-1-2]同時性壁内転移を認めたS状結腸癌の1例

小林 冬美1,2, 田原 真紀子1, 河合 繁夫3, 渡部 純1, 北林 宏之1, 塩澤 幹雄1, 近藤 悟1, 小泉 大1 (1.とちぎメディカルセンターしもつが外科, 2.自治医科大学付属病院消化器一般外科, 3.とちぎメディカルセンターしもつが病理診断科)
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症例は63歳,男性.1週間前からの腹痛,食思不振のため当院を受診し,腹部CT検査でS状結腸に辺縁不正の全周性壁肥厚とその口側腸管の拡張,液面形成がみられた.S状結腸癌イレウスの診断で,大腸ステント留置術を施行した.ステント留置後に施行した下部消化管内視鏡検査でanal verge(AV)から40cmのS状結腸に大腸ステントが留置され,AVから20cmになだらかな立ち上がりの隆起性病変を認めた.表面粘膜はおおむね正常粘膜に覆われ,頂部に小潰瘍を認めた.潰瘍部からの生検はAdenocarcinoma tub1の診断であった.以上より,同時性多発大腸癌(S状結腸癌2か所)と術前診断し,腹腔鏡下高位前方切除術を施行した.術後経過良好で術後第10病日で退院した.術後の病理組織診断では,原発巣はAdenocarcinoma, tub1>tub2,pT3,INFb,Ly0,V0,Pn0,N1a,pStageIIIaであった.原発巣より肛門側の病変は粘膜下層から漿膜下層を首座とし粘膜表面への露出を伴った.癌の組織像は原発巣と同様の組織像であり,粘膜下腫瘍様を呈していることから壁内転移と診断された.現在,術後6カ月の補助化学療法を終了し外来経過観察中である.
 直腸癌壁内転移の報告は散見されるが,結腸癌壁内転移はまれである.大腸癌の壁内転移は本邦大腸癌取り扱い規約では取り上げられていないが,欧米ではdistal intramural spread(DIS)として報告されている.DISの定義は,粘膜下層以深における腫瘍の肛門側水平方向への進展とされており,腫瘍先進部まで連続進展する症例と,間に正常組織を介する症例(skip lesion)の両方を含んでいる.本症例では原発巣と壁内転移巣までの距離が術前に施行した下部消化管内視鏡検査では10cm程度あり,壁内転移(skip lesion)したと考えられる.DISの進展形式について,リンパ行性が60%,血行性が20%,直接浸潤が20%と報告があり,リンパ行性のものがもっとも多いとされている.異時性の壁内転移再発をきたした大腸癌の検討では,静脈侵襲陽性例のほうが多い傾向があるとの報告もあり,進展形式に関しては,今後のさらなる検討が必要である.
 今回,われわれは同時性壁内転移を認めたS状結腸癌の1例を経験したので文献的考察を加え報告する.