講演情報

[P10-1-1]慢性期脊髄損傷患者の痔核根治術を日帰り手術で施行した一例

清松 裕子1,2, 小村 憲一1, 杉山 順子1,3, 宇野 能子1,4 (1.小村肛門科医院, 2.清松クリニック, 3.春日部市立医療センター, 4.鵜戸西クリニック)
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慢性期脊髄損傷(以下脊損)患者は直腸肛門機能に障害をきたし便意を生じず,腹圧の低下によって排便困難となり,排便のための用手的操作,浣腸等が必要となる.痔核手術を行った場合,これら排便操作の刺激により,肛門内を損傷すると出血をきたすため,手術には慎重にならざるを得ない.今回の経験を報告する.
 症例は29歳男性.25歳時,外傷による脊髄損傷にて腰部以下の麻痺を認めている.排便は3日に1回レシカルボン座薬と自己摘便にておこなっている.排便後の痔核脱出と出血を頻繁に認めるようになり当院初診.全周性外痔核を伴う3度内痔核を認めた.障がい者スポーツ大会出場のため,出血コントロールのみを希望されたため,ALTA注単独療法施行.無麻酔にて施行したところ,術中収縮期血圧200を超える血圧上昇を認めたため少量投与にて中断した.その後再発し,前回の反省から,局所麻酔下ALTA注単独療法施行.術中合併症なく施行しえた.6か月後再発したため切除が必要なことを説明したところ,日帰り手術を希望されたため,局所麻酔下ALTA併用療法E3・A施行(術式は当日ビデオにて供覧).3日毎に外来通院し,切除部位を損傷しないように丁寧に摘便を術後2週間まで行い,出血は認めなかった.現在は再発なく,スポーツ大会にも出場し,快適に過ごされている.
 当患者においては,自宅が車椅子生活を送れるようにカスタマイズされているため,入院の方が不自由であり,日帰り手術を希望された.車椅子生活のため,肛門に負担がかかり,排便時に摘便を要することから,術後のケアが重要である.術後出血をきたす2週間まで当院で摘便を行ったが,術後出血は認めなかった.また,脊損患者において,無知覚領域での侵害刺激によって異常高血圧などを兆候とする自律神経反射亢進(autonomic hyperreflexia:AH)がみられることがある.今回我々は,無麻酔にてALTA注を行ったところAHをきたし,その後の手術では局所麻酔によりAHを来さず,安全に痔核手術を行い,術後排便コントロールを外来通院で行い合併症なく治癒させることができた.この症例の経験を活かし,同様の脊損患者の痔核手術計4例を日帰りで安全に行っている.