講演情報
[R16-1]重症会陰裂傷後の肛門括約筋不全(直腸腟瘻)に対する手術方法―会陰体形成術―
村山 浩之 (医療法人村山会むらやま大腸肛門クリニック)
会陰裂傷の多くは分娩時に起こり,その原因としては吸引・鉗子による急速遂娩,巨大児や胎位異常による過度の進展,高齢初出産などがある.会陰裂傷の中でも重症度分類3・4度である肛門括約筋や直腸粘膜まで裂けた場合,直後に適切に縫合閉鎖されても,一部の症例では総排泄腔や直腸膣瘻になる場合がある.それに対し肛門括約筋形成術や会陰形成術など施行されるが,特に直腸腟瘻はしばしば再発し,難治性になる場合がある.しかし当院では会陰体形成術により再発を認めず排便機能も良好な経過を得ており,その方法を直腸肛門前方の解剖・病理を元に手術画像を添えて説明する.腰椎麻酔下,ジャックナイフ・開脚位で行う.膣と肛門の間の会陰部を横切開し,膣壁と直腸壁の間を口側へと剥離するが,この間は非常に薄く裂傷後や縫合後の癒着もあり慎重に行う.直腸腟瘻の場合は途中瘻管を分断し,直腸側と腟側の瘻孔をそれぞれ縫合閉鎖する(直腸側は粘膜と筋層の2層縫合).奥はダグラス窩付近まで剥離を進める.左右の会陰体を露出し次に会陰体縫合を行うが,この会陰体の同定と縫合方法が非常に重要である.まず1層目(深部)を3針,2~4層は4~5針と徐々に皮膚側へと厚みを増していくように縫合していく(縫合糸は3-0合成吸収性モノフィラメントを使用).皮下まで縫合すると外肛門括約筋も自然と断裂部位が寄り会陰に厚みができ,会陰部の皮膚閉鎖創は縦の創となる.会陰体(他にperineal body,会陰小体,会陰腱中心とも呼ぶ)は解剖学的に内肛門括約筋輪走筋・連合縦走筋が集まる筋束と恥骨直腸筋の前束,浅会陰横筋・外肛門括約筋そのものが集合した部位にある.会陰体の組織は平滑筋で強靭な靭帯で形成され,ゴムのような柔軟性があり一旦伸びても復元性があるが,急激な引き伸ばしや損傷,加齢により脆弱になると元には戻りにくい.そうなると便通異常(便秘・残便感),便漏れ,会陰下垂,さらには直腸瘤や直腸脱,子宮脱,膀胱脱などの骨盤臓器脱が発生する要因となる.よってこの会陰体を縫合(修復)することが解剖学的にも排便機能的にも元の正常な状態に近づくと考える.