講演情報

[P8-2-3]腹部大動脈瘤人工血管置換術後,S状結腸癌に対してOver lay蛍光尿管ナビゲーション補助下で腹腔鏡下S状結腸切除を行った一例

川窪 陽向, 柳 舜仁, 中嶋 俊介, 河合 裕成, 小林 毅大, 今泉 佑太, 伊藤 隆介, 中林 幸夫 (川口市立医療センター消化器外科)
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【症例】80歳代,男性.
 【主訴・病歴】便潜血陽性
 【既往歴】5年前に腹部大動脈瘤に対して人工血管置換術施行,慢性腎不全(透析),狭心症,2型糖尿病,左下肢閉塞性動脈硬化症
 【検査】下部消化管内視鏡:S状結腸(AV 40cm)に0-IIc病変(生検;腺癌)
 CT:S状結腸に腫瘍性病変は同定されず,遠隔転移を認めず
 【治療】Re-do surgeryであり剥離層の同定に難渋することが予想されたため,蛍光尿管カテーテル(Cardinal Health社)を挿入して蛍光尿管ナビゲーション下に腹腔鏡下手術を行う方針とした.腹腔鏡システムはStryker 1788 4K camera system(Stryker社)を用い,近赤外蛍光観察のover layモードで常に尿管を視覚化しながら手術を行った.手術歴と並存疾患から,腸管吻合は危険と判断し腹腔鏡下ハルトマン手術D2郭清を行った.手術時間は4時間16分,出血少量で手術を終了した.術後虚血性腸炎を認めたが,保存的に軽快し退院した.病理診断はT1bN0M0stageIであった.
 【考察】
 Re-do surgeryでは,初回手術の剥離操作によりembryological planeが癒着・線維化し,剥離層の同定が困難となる.術中解剖を誤認すると他臓器損傷の危険が増し,低侵襲手術継続も困難となる.
 近年,近赤外蛍光樹脂を用いて開発された蛍光尿管カテーテルが臨床導入され,術中に近赤外光によりリアルタイムで尿管を可視化する蛍光ガイド手術が可能となった.これはRe-do surgeryにおける解剖のオリエンテーション把握に有用で,尿管損傷を予防するメリットもある.
 当院で使用されているStryker 1788 4K camera system(Stryker社)のoverlayモードは,近赤外蛍光観察画像と通常光画像とを高画質なフルカラー画像で重畳するため,常に尿管を蛍光で可視化しながら剥離授動を行う事ができ,より安全な蛍光ガイド手術が可能である.
 本症例は前回手術で腎動脈尾側から総腸骨動脈までが剥離され人工血管と吻合されており,S状結腸授動の層が癒着,繊維化していたが,蛍光により尿管走行が確認でき,その背側の人工血管や総腸骨血管の走行を把握し安全な剥離層を選択する事が可能となり,合併症なく手術を完遂することができた.