講演情報
[P2-1-6]吻合部肛門側で直腸膣瘻を形成した低位前方切除術後直腸潰瘍の1例
松本 圭太, 浅井 竜一, 鷹尾 千佳, 田島 ジェシー雄, 木山 茂, 洞口 岳, 畑中 勇治, 深田 真宏, 安福 至, 佐藤 悠太, 田中 善宏, 村瀬 勝俊, 松橋 延壽 (岐阜大学医学部附属病院)
症例は89歳女性.直腸癌に対してロボット支援下直腸低位前方切除術,横行結腸人工肛門造設術を施行した.吻合前にはICGでの血流評価を行った.術後偽膜性腸炎を繰り返し,メトロニダゾール,バンコマイシンでの治療を要したが,縫合不全は認めなかった.下部消化管内視鏡検査で吻合部のstapleの状態が問題なく,CT上も吻合部周囲の液貯留が無いことを確認した上で,術後64日目に人工肛門閉鎖術を行い,術後に再度偽膜性腸炎を発症した.人工肛門閉鎖から32日後に,再々度偽膜性腸炎を発症し,バンコマイシンを投与開始したが,その6日後に膣からの排便を認めた.下部消化管内視鏡検査で吻合部の肛門側に亜全周性潰瘍を認め,同部位で膣との瘻孔を形成していることを造影検査で確認した.吻合部の口側にも潰瘍形成を認めた.高齢で複数回の手術後でもあり,侵襲の少ない人工肛門再造設術を行った.術後は心不全で加療を要したが,術後64日目に退院となった.
直腸潰瘍は,疾患概念や臨床病理学的特徴から,急性出血性直腸潰瘍,直腸粘膜脱症候群,宿便性潰瘍,潰瘍性大腸炎,NSAIDs起因性大腸潰瘍,外傷(浣腸,異物)などに分類される.今回の潰瘍は突然の大量の新鮮血下血で始まる急性出血性直腸潰瘍や宿便性潰瘍,過度のいきみにより発症する粘膜脱症候群の特徴とは異なり,潰瘍性大腸炎やNSAIDs起因性大腸潰瘍,外傷(浣腸,異物)も原因としては否定的である.難治性の偽膜性腸炎による下痢,心不全による循環障害が今回の事例の発生に関係していると思われる.また,吻合部とは異なる部位で発生していることから縫合不全による直腸膣瘻とも異なる.本症例のように,術後吻合部とは異なる部位に潰瘍を形成し膣と瘻孔を形成した症例は検索する限り認められない.
今回われわれは,吻合部肛門側で直腸膣瘻を形成した低位前方切除術後直腸潰瘍の1例を経験した.難治性の偽膜性腸炎を認めた場合,人工肛門閉鎖についてはより慎重に検討するべきと考えられた.
直腸潰瘍は,疾患概念や臨床病理学的特徴から,急性出血性直腸潰瘍,直腸粘膜脱症候群,宿便性潰瘍,潰瘍性大腸炎,NSAIDs起因性大腸潰瘍,外傷(浣腸,異物)などに分類される.今回の潰瘍は突然の大量の新鮮血下血で始まる急性出血性直腸潰瘍や宿便性潰瘍,過度のいきみにより発症する粘膜脱症候群の特徴とは異なり,潰瘍性大腸炎やNSAIDs起因性大腸潰瘍,外傷(浣腸,異物)も原因としては否定的である.難治性の偽膜性腸炎による下痢,心不全による循環障害が今回の事例の発生に関係していると思われる.また,吻合部とは異なる部位で発生していることから縫合不全による直腸膣瘻とも異なる.本症例のように,術後吻合部とは異なる部位に潰瘍を形成し膣と瘻孔を形成した症例は検索する限り認められない.
今回われわれは,吻合部肛門側で直腸膣瘻を形成した低位前方切除術後直腸潰瘍の1例を経験した.難治性の偽膜性腸炎を認めた場合,人工肛門閉鎖についてはより慎重に検討するべきと考えられた.