講演情報

[P3-2-1]下部進行直腸癌に対して術前化学放射線療法後に直腸壊死に至った1例

森田 隼登, 矢野 琢也, 下村 学, 奥田 浩, 赤羽 慎太郎, 望月 哲矢, 今岡 洸輝, 別木 智昭, 石川 聖, 佐藤 沙希, 渡邊 淳弘, 森内 俊行, 大段 秀樹 (広島大学病院消化器・移植外科)
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【緒言】局進行直腸癌に対して,欧米では術前化学放射線療法(CRT)が標準治療となっており,さらにCRTの前後に化学療法を組み合わせたtotal neoadjuvant therapy(TNT)も治療開発がされており,直腸癌の治療においてCRTが重要な位置づけになっている.直腸癌に対してCRT後に直腸壊死に至った症例を報告する.
【症例】
症例は60代男性.3ヶ月の下血あり,前医受診し大腸内視鏡検査で直腸Ra-Rbに易出血性の2型腫瘍を認め,生検で高分化管状腺癌の診断となり当科紹介となった.精査の結果,cT3,N0,M0,cStage IIaと診断した.CRT(50.4Gy/28回+S-1内服)を開始した.治療開始から36日目,43.2Gy/24回目の放射線治療後に肛門痛あり受診し,CTで直腸穿孔の疑いあり,絶食補液,セフメタゾール(CMZ)による抗菌薬治療を開始した,抗菌薬治療で改善を認めないため,入院後6日目に横行結腸人工肛門造設を行った.入院後15日目CTで後腹膜膿瘍の増大あり,CTガイド下ドレナージを施行し,全身管理するもDICが進行したため,入院後27日目感染コントロール目的に直腸切断術および洗浄ドレナージを施行した.術中所見では直腸は壊死融解していたため完全な直腸切除は困難であった.その後骨盤内感染のコントロールが不良で,門脈血栓と肝膿瘍が出現し増悪傾向となり,入院後34日目再開腹を行い,骨盤内の壊死組織のデブリードマン+ドレナージと小腸穿孔に対して回盲部切除術と小腸人工肛門造設術を行った.骨盤内の感染コントロールがつかずDIC進行のため入院後36日目死亡した.
【考察】本邦においても直腸癌に対してCRTを行うことが増加してきているが,放射線は標的組織以外への放射線障害も問題となり,小腸や肛門などが組織障害を受けることで小腸炎,直腸炎,直腸狭窄,排尿障害の他,術後の肛門機能や縫合不全を含む感染性合併症が増加するとの報告がある.CRT後に腫瘍の縮小により腫瘍部の穿孔を発症した報告があるが直腸壊死となった報告はない.
【結語】Stage II下部直腸癌に対してCRT施行後,直腸壊死し,死亡した極めて珍しい1例を経験した.文献的考察を加えて報告する.