講演情報

[R9-3]進行下部直腸癌に対する選択的側方郭清の意義の検討

別木 智昭, 下村 学, 矢野 琢也, 赤羽 慎太郎, 望月 哲矢, 今岡 洸輝, 石川 聖, 渡邊 淳弘, 森内 俊行, 佐藤 沙希, 大段 秀樹 (広島大学消化器移植外科)
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【背景】本邦の下部直腸癌に対する治療戦略は欧米と異なり,全直腸間膜切除+両側側方郭清が標準治療となっているが,術前化学放射線療法+全直腸間膜切除を行う施設は増加しており,近年では遠隔転移制御を目的として,術前に全身化学療法を行うtotal neoadjuvant therapy(TNT)の議論が盛んになっている.当院のStageII-III下部直腸癌に対する治療方針は,術前化学放射線療法+全腸間膜切除術を基本としており,i)術前治療前の画像診断で,7mm以上の腫大がある,ii)MRIで拡散能の低下がある,iii)PET-CTでFDG集積(+)の3つの条件の内,いずれか一つ以上の条件を満たす側方リンパ節を有するstageII-III下部直腸癌症例には,術前化学放射線療法後の原発巣切除に加えて,患側の側方リンパ節郭清を行っている.
 【目的】StageII-IIIの下部直腸癌症例に対して,側方郭清実施が術後短期成績に与える影響と,術前化学放射線療法を実施した症例に対し,側方リンパ節腫大を有する症例への選択的側方郭清術実施が長期予後に与える影響について明らかにすることを目的とした.
 【対象/方法】2013年から2023年の間に,StageII-IIIの下部直腸癌に対し当院で術前化学放射線療法後に根治切除術を行った68例を解析対象とし,側方郭清群と非側方郭清群の2群に分類し,後方視的に検討した.
 【結果】側方郭清群は14例(20.6%;両側側方郭清2例),非側方郭清群は54例(79.4%)だった.側方郭清群にのみpN3症例が含まれ(3例:21.4%,P=0.006),pN3症例は全て側方リンパ節転移陽性症例だった.2群間で術後合併症発症,重症度に有意差はなかった.フォロー期間中央値は48.8ヶ月で,22.1%に当たる15例が再発した.生存期間解析では,2群間で,5年全生存率(83.3 vs 88.9%;P=0.991),5年再発率(32.5 vs 25.2%;P=0.880),ともに有意差はなかった.再発部位別でも5年再発率(肝:0.0% vs 3.8%;P=0.467,肺:10.0 vs 17.9%;P=0.449,局所:32.5 vs 6.9%;P=0.098)に2群間で有意差はなかった.
 【結論】術前放射線療法後の側方リンパ節郭清は安全に施行できており,術前治療前画像診断で,側方リンパ節陽性と判断した症例には,化学放射線療法後の側方リンパ節郭清が必要であると考えられた.