講演情報
[R10-5]回腸人工肛門と結腸人工肛門が腎機能に及ぼす影響の比較
吉川 千尋1, 小山 文一1,2, 久下 博之1, 岩佐 陽介1, 高木 忠隆1, 藤本 浩輔1, 田村 昂1, 江尻 剛気1, 庄 雅之1 (1.奈良県立医科大学附属病院消化器・総合外科, 2.奈良県立医科大学附属病院中央内視鏡部)
【目的】当科では直腸癌手術後の縫合不全への対応として症例に応じて一時的回腸人工肛門を造設しているが,術後に腎機能障害を起こす症例を経験することも少なくない.今回,直腸癌手術症例において回腸人工肛門,結腸人工肛門が腎機能に及ぼす影響について比較検討した.【方法】期間は2008年1月から2023年12月で,対象は直腸癌患者219例で回腸人工肛門造設を伴う83例(ileostomy群:I群)と,APR症例に対し結腸人工肛門を造設した86例(colostomy群:C群),LAR群(L群)50例に分類し,手術直前と,術後9-12ヶ月後の推算糸球体濾過量(eGFR)を比較した.3群ともに初回手術時のeGFRが60(ml/min/1.73m2)未満の患者を除き,eGFR20%以上の低下を“腎機能低下”と定義した.【結果】年齢中央値はI群:63歳(24-80),C群:66.5歳(30-85),L群63歳(36-82)で男女比はI群:55/28例,C群:50/36例,L群29/21例で,糖尿病/高血圧/脂質異常症がI群::15/19/13例,C群:10/28/15例,L群9/16/9例であった.腫瘍下縁はI群:Rs/Ra/Rb/P:4/12/61/6例,C群:1/2/42/41例,L群:Rs/Ra/Rb:15/23/12例,術式はI群でLAR/sLAR/ISRが43/15/25例で,側方郭清はI群46例,C群58例,L群1例で施行していた.開腹症例がI群14例,C群18例,L群1例,手術時間はI群 472分(170-882),C群523分(230-945),L群329分(81-763)で,出血量はI群76ml(0-600),C群:133ml(0-6300),L群5ml(0-623)であり,fStageはI群で0/I/II/III/IV:4/25/11/39/4例,C群で0/I/II/III:3/15/21/47例,L群で0/I/II/III:3/15/14/14/4例であった.初回手術時のeGFR G1/G2はI群で22/61例,C群で22/64例,L群で11/39例であり,術前/術後化学療法はI群30/57例,C群34/46例,L群6/17例に施行していた.3群の比較では年齢,手術時間,出血量,開腹,側方郭清,術前/術後化学療法,腎機能低下で有意差を認めた.は腎機能が低下した症例はI群20例(24%),C群8例(9.3%),L群4例(8%)でC群とL群の間に有意差はなかったが,I群はC,L群両群に比して有意に腎機能が低下した.【結語】直腸癌手術症例において,回腸人工肛門はAPR症例,人工肛門を伴わないLAR症例よりも腎機能低下症例が多く,回腸人工肛門造設を行う際は術後腎機能障害に注意しなければならない.