講演情報

[P15-1-1]腹腔鏡下大腸切除術後に筋膜切開を要した左下腿well leg compartment syndromeの1例

宇野 彰晋, 深澤 貴子, 鈴木 克徳 (磐田市立総合病院消化器外科)
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【はじめに】
Well leg compartment syndrome(WLCS)は手術体位による下肢圧迫により,健常な下肢に発症するコンパートメント症候群であり,早急な診断と適切な治療が行われないと,不可逆的な筋・神経障害をきたしうる疾患である.
今回われわれは,腹腔鏡下大腸切除術後に発症した筋膜切開を要したWLCSの1例を経験し,その後当院での対策も含めて報告する.
【症例】72歳男性.身長167cm,体重71kg,BMI 25.5.交通事故のため,下半身麻痺があり,車いす生活であったが,下肢の痛みはわかる状態であった.貧血の進行,黒色便の精査で2型のS状結腸癌を指摘され,当科紹介.cT1,cN0,cM0,cStageIのS状結腸癌に対し,2022年〇月〇日に腹腔鏡下S状結腸切除術(D3)を施行した.手術は砕石位で行い,内臓脂肪が多く,脾彎曲部の受動に時間を要したこともあり,手術時間9時間55分の長時間手術となった.術後より左下腿の痛みを認め,術翌日のCPKは7450U/Lと高値であったが,左下腿の筋満感は乏しく経過観察とした.術後2日目も疼痛持続し,特に動作時痛が増強,CPKは11450U/Lとさらに上昇した.整形外科にコンサルトを行い,下腿のCTを施行.左腓腹筋およびヒラメ筋の腫脹,均一な淡い低吸収域を認め,WLCSと診断された.同日,局所麻酔下に筋膜切開術を行った.その後下腿の症状は改善し,筋膜切開後12病日に縫合術が行われ,その後ほぼ後遺症のない状態となった.
【考察】WLCSの発生原因は下肢の血行障害による組織虚血であり,危険因子は長時間手術,砕石位などの手術体位,末梢血管障害の既往,肥満,弾性ストッキング,間欠的空気圧迫装置などがいわれている.当院ではレビテーター使用時のWLCSに対するフローチャートを使用していたが,今回の症例以後フローチャートを改正し,ローテーション時間・砕石位を解除する時間を短縮した.さらに体圧測定器(パームQ)の使用を開始し,圧測定を行うなどの対策を行うこととした.
【結語】大腸癌手術,特にロボット手術も含めた腹腔鏡手術は増加傾向であり,時に後遺障害を残すことのある重篤な合併症であるWLCSの発症の対策および発症後の早期の介入が重要であると考えられた.