講演情報
[PD5-11]大腸T1b癌に対するESDの垂直断端陽性に関するリスク因子の検討
副島 啓太1, 鈴木 桂悟1, 高松 学2, 安江 千尋1, 伊藤 はるか1, 木戸 恒陽1, 栗原 渉1, 岡嵜 惣也1, 熊澤 佑介1, 十倉 淳紀1, 井出 大資1, 千野 晶子1, 斎藤 彰一1 (1.がん研有明病院・下部消化管内科, 2.がん研有明病院・病理部)
【目的】近年,大腸T1癌に対する内視鏡治療の適応拡大が議論されている.以前,我々はpT1b癌のうち他のリスク因子が陰性の場合,リンパ節転移の割合は1.6%と低率であることを報告しており,適応拡大候補群といえる.一方,近年では高齢者や基礎疾患併存例へのcT1b癌の局所治療として切除断端陰性を前提とした大腸ESDの役割が期待されている.今回,当院における大腸pT1b癌に対するESDの治療成績を解析しT1b癌に対するESDの垂直断端(VM)陽性と関連のあるリスク因子について検討した.【方法】2011年1月から2022年3月までにESDを行った大腸pT1b癌180例を対象とし,VM陽性群38例と陰性群142例に分けた.それぞれの群の内視鏡所見や臨床病理学的因子との関連性を後方視的に検討した.また,陥凹を有するpT1b癌68例に対するサブグループ解析を行い,陥凹の大きさとVM陽性との関連性について検討を加えた.【成績】対象症例の臨床的背景は,年齢の中央値は67歳(34-85),性別は男性/女性が101(56.1%)/79(43.9%),結腸/直腸が88(48.9%)/92(51.1%),腫瘍径の中央値は25mm(7-100),術前にT1bを疑った症例は101例(56.1%)であった.治療成績はR0切除率が78.9%(142/180),VM陽性率は20.1%(38/180)に及んだ.平均切除時間は74.9分で偶発症は後出血率が0.6%(1/180),穿孔率が2.2%(4/180)だったが緊急外科手術となったものは認めなかった.VM陽性に対する多変量解析で独立したリスク因子は,明らかな陥凹(HR 8.46[95%CI:2.57-27.8]),内視鏡的高度線維化(HR12.2[95%CI:4.52-33.2]),粘膜下層浸潤部の最低分化度(HR22.6[95%CI:6.07-84.5])であった.陥凹を有するpT1b癌のサブグループ解析においては,VM陽性と有意に関連のあるリスク因子は陥凹長径が12mm以上(HR1.31[95%CI:1.1 -1.56])であった.【結論】pT1b癌に対するESDでVM陽性のリスク因子は明らかな陥凹および高度線維化,浸潤部の低分化所見であった.cT1b癌の中でも陥凹を有するものはESDで垂直断端陽性となるリスクがあり,適応について慎重に検討する必要があると思われた.