講演情報

[R16-2]分娩時肛門括約筋損傷に対する治療の工夫―早期発症例と晩期発症例―

田邊 太郎, 木村 熙伸, 高野 弓加, 徳永 良太, 保母 貴宏, 横山 登, 井上 晴洋 (昭和大学江東豊洲病院消化器センター)
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【はじめに】会陰裂傷3−4度,すなわち分娩時肛門括約筋損傷(Obstetric anal sphincter injuries:OASIs)は,経膣分娩のおよそ1.4-6.5%に生じると報告されており,便失禁を伴うこともある重大な分娩時合併症の一つである.OASIsに対する肛門括約筋の修復は,分娩時にわかっていれば分娩直後に行われるが,分娩時に気づかれなかった場合や,一次修復が不十分な場合の治療法や治療時期について一定の見解がない.今回我々は,便失禁を伴うOASIsに対する治療について,時期による相違点をふまえ報告する.
【症例】
症例1:40歳,初産.妊娠40週3日目,分娩中の胎児機能不全に対し吸引分娩による急速墜娩を行い,3710gの男児を出産.分娩時,第IV度会陰裂傷の診断で同日に肛門括約筋形成術を施行.
症例2:29歳,初産.妊娠40週4日目,分娩中の胎児機能不全に対し急速墜娩を行い,3230gの男児を出産.分娩時,第III度会陰裂傷の診断で膣壁,会陰,括約筋を縫合閉鎖.産後4日目に便失禁および膣内便貯留を認め,身体所見上も肛門・膣の総排泄腔様所見を認めたため,創哆開に伴う第IV度会陰裂傷と診断.産後8日目に当院搬送され,肛門括約筋形成術を施行.
症例3:39歳,初産.妊娠39週5日目,分娩停止に対し吸引分娩施行し,3232gの男児を出産.分娩時は第II度裂傷の診断で膣壁を縫合閉鎖.産後から切迫性便失禁あり.症状改善なく,産後1年目にWexner score 19点の便失禁を主訴に受診.精査の上,OASIsによる便失禁の診断で肛門括約筋形成術を施行.
【考察】OASIsに対し,分娩後ただちに修復することに議論の余地はないが,分娩中に気づかれなかった潜在的括約筋損傷の症例や,一次修復が不十分だった症例についての治療時期や治療法は一定の見解がない.従来は,重度の便失禁を伴うOASIsについては,術後の創感染や肛門機能障害などを避けるため,一時的人工肛門造設を行い,二次的に形成術を行うべきとされていた.一方で,一時的人工肛門を作らない治療法の報告もあり,当院での治療経験からも,症例を選んで括約筋形成ができれば良好な肛門機能を得られると考える.