講演情報

[PD5-10]当院における直腸pT1癌に対する内視鏡的粘膜下層剥離術の治療成績

海老澤 佑1, 千葉 秀幸1, 古賀 大輝1, 林 映道1, 小林 幹生1, 有本 純1, 桑原 洋紀1, 中岡 宙子1, 森園 剛樹2, 日吉 雅也2, 橋口 陽二郎2 (1.大森赤十字病院消化器内科, 2.大森赤十字病院消化器外科)
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背景:ESDは機器や治療技術の改良により早期大腸癌に対する低侵襲で安全な治療として普及してきたが結腸癌と比べ直腸癌では,悪性度や再発率において異なる点が多いとされその対応には注意を要する.一方,下部直腸癌(Rb癌)に対する外科手術は侵襲が大きいことから,診断的内視鏡治療が増えているがその妥当性については議論が尽きない.方法:2012年4月から2024年3月に当院において大腸ESDを施行した1611病変(早期大腸癌708例)のうち,直腸癌に対するESDでpT1と診断された症例を対象とし,後ろ向き観察研究を行った.検討内容はRb群とnonRb(RaまたはRs)群でESDの治療成績の比較した.結果:直腸pT1は37例でRb群16例non-Rb群21例であった.以下Rb群:non-Rb群とすると,患者背景は男女比は8/8:13/8,年齢中央値は75.5歳:69歳であった.術前内視鏡診断(cTis/cT1)は5(31.2%)/11(68.8%):8(38.1%)/13(61.9%)とややRb群でcT1が多い結果であった.腫瘍径中央値は24.5mm(12-67mm):24mm(10-135mm),肉眼型(平坦/隆起)は4/12:9/12であった.術時間中央値は24分(14-160分):32分(8-250分)であった.いずれも一括切除されたがRb群で1例術後出血を認めた.病理評価は,深達度(pT1a/pT1b)が4/12:9/12,治癒切除例(%)は2(12.5):8(38.1)とRb群で低かった.垂直断端陽性例はRb群で1例のみであった.なおRb群の非治癒切除理由はpT1b12例,pT1aかつBudding grade2以上2例であった.Rb群の非治癒切除14例のうち9例(64.3%)で追加手術され2例(14.2%)でリンパ節転移を認めた.一方,nonRb群の非治癒切除13例のうち11例(84.6%)で追加手術され2例(15.4%)でリンパ節転移を認めた.両群とも経過観察例はいずれも現時点で再発例はない.総括:Rb群は診断的ESDを行っていた傾向が推測されるが,全体として直腸pT1に対するESDは全例一括切除され後出血1例と比較的良好であった.しかし直腸T1癌全体として非治癒切除27例のうち4例(14.8%)でリンパ節転移を来しており慎重な対応を要する.また,ESDでの垂直断端陽性例を1例認めており,確実な病理評価のためにもESD技術の改良やPAEMや局所全層切除など更なる技術発展も期待される.