講演情報
[P15-2-3]腸ハエ幼虫症(蝿蛆症)の1例
柳生 利彦 (東大阪病院・消化器科)
【はじめに】蝿蛆症は,ハエウジ症,ハエ幼虫症とも呼ばれハエの幼虫(蛆)が生きた哺乳類の体内に侵入したことによって発生する感染症である.環境要因より熱帯地域によくみられるが衛生環境のよい地域では稀な疾患である.寄生部位には皮膚,目,耳,胃,腸管,泌尿器,生殖器などがあり多様な症状を生じる.今回我々は血便搬送後の患者の便中に大量のハエ幼虫を認めた腸ハエ幼虫症の稀な1例を経験したので報告する.【症例】78歳女性.血便を主訴に救急搬送された.体温38.5度,身長129cm,体重23kg.約1ヵ月の経口摂取不良もあり極度のるい痩と血液検査では炎症反応上昇,電解質異常,腎前性腎不全を認めた.急性期DICスコア7点にて敗血症性DICの診断にて入院加療.第2病日便中に大量の白色の約1cm弱の虫体を認めた.虫体は実態顕微鏡下で虫尾に1対の気門器官を認めハエ類幼虫と確認された.全身状態改善後上下部内視鏡検査を施行.胃体中部前壁に単発びらん,下部直腸中心に多発潰瘍を認めた.生検病理では非特異的炎症所見のみ認めた.便培養,CMV等免疫染色陰性で第2病日以降に虫体の排出は認めず保存的加療にて直腸潰瘍も軽快,経口摂取も良好となり第30病日にリハビリ目的転棟となった.【考察】搬送時の劣悪な居室状態より腐乱した食物の摂食が原因と示唆された.衛生環境が良好である我が国において実臨床でハエ幼虫症を経験することは稀であるが高齢者の増加や貧困化により今後症例数の増加の可能性も高く若干の文献的考察を加えて報告する.