講演情報

[P16-2-2]待機手術が奏功した小腸穿孔・腸間膜内膿瘍形成を伴うクローン病の1例

谷 公孝, 前田 文, 腰野 蔵人, 二木 了, 金子 由香, 番場 嘉子, 小川 真平, 山口 茂樹 (東京女子医科大学消化器一般外科)
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症例は43歳男性.既往歴に18年前に診断されたクローン病がある患者で5-ASA製剤とAZA・USTで維持治療が行われていた.20XX年某日に腹痛を主訴にかかりつけの他院を受診.腸閉塞の診断で緊急入院.その後,入院時のCT読影で小腸穿孔を指摘され入院翌日に当院に転院搬送となった.来院時,体温39.3度と高熱を認め,腹部所見は膨満してやや硬く,右下腹部に限局した反跳痛を認めた.血液検査所見は炎症反応の著明な上昇あり.CT所見は腹腔内に遊離ガスと腹水貯留を認め消化管穿孔の診断.また,口側回腸に小腸壁の途絶部位があり,腸間膜内にairの混入と膿瘍形成を認めた.腹膜炎所見があるため緊急手術も考慮されたが,急性期の手術による術後合併症の増加と大量腸管切除の可能性を考慮して,厳重経過観察のもと保存的加療を行う方針とした.入院後は絶飲食・補液管理とし,抗生剤(MEPM)投与の他,PSL40mg/dayを開始.入院翌日には解熱.入院2日目には腹部膨満症状はあるが炎症反応は改善し,入院7日目には腹痛の訴えも消失.入院10日目より成分栄養剤内服を少量より開始し以後増量.PSLは漸減した.入院4週目には腹部所見良好で炎症反応も正常化を認めた.入院39日目に腹腔鏡手術施行.腹腔内は大網・小腸・結腸の全体的な癒着が目立ったが腸管の拡張や浮腫は軽度.Treitz靭帯から約110cm~140cmの部分で腸間膜の肥厚が目立ち,腸管狭窄が散在していたため,穿孔部を含む約30cmの小腸を切除吻合した.残存小腸は220cmであった.術後経過良好で術後9日目に退院.Clavien-Dindo GradeII以上の合併症は認めず.
 クローン病は再燃・寛解を繰り返し,経過中に腸管合併症を生じ手術となることが多く,腸管切除後も高率に再発を認め手術が複数回に及ぶことが多々ある.また,クローン病の緊急手術は腸管に高度の炎症を伴うため,術後合併症の増加や大量腸管切除による短腸症候群を合併するリスクがある.本症例は待機手術を施行し,腸管を可及的に温存し,低侵襲な腹腔鏡手術で術後合併症なく良好な治療成績を得た.クローン病の腸管穿孔に対して待機手術は術後合併症の減少および腸管切除範囲の縮小につながる可能性が示唆された.