講演情報

[P6-2-2]腎機能低下を来たしオピオイドが相対的過量となったS状結腸癌の1例

後藤 麻佑1,3, 牛込 充則1, 宮田 祥一2,3, 齋藤 淳一3,4, 船橋 公彦1, 中村 陽一3 (1.東邦大学医療センター大森病院消化器外科, 2.東邦大学医療センター大森病院薬剤部, 3.東邦大学医療センター大森病院緩和ケアセンター, 4.東邦大学医療センター大森病院精神神経科)
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はじめに:がん終末期には身体的苦痛に対して症状緩和目的でオピオイドを使用している場合が多い.さらに積極的抗がん治療を終了し,Best supportive care(BSC)となった患者では,病勢悪化に伴い,急激に腎機能低下を来たす場合がある.今回我々はBSC中に腎機能低下をを来たし,オピオイドが相対的過量となり意識障害および呼吸抑制を呈した症例を経験したので報告する.
症例:70歳代女性.S状結腸癌術後,肝転移術後,局所再発,傍大動脈リンパ節転移,多発肝転移,第4腰椎転移,右腸骨転移に対して化学療法を施行していた.カンジダ血症で入院加療後,全身状態の悪化を認め,BSCとなった.がん疼痛に対して,フェンタニルクエン酸塩1日用テープ4mgおよび疼痛時にはオキシコドン速放剤10mgを使用していた.悪心嘔吐および経口摂取困難のため緊急入院となった.入院時には意識清明,採血結果ではBUN 71mg/dL,Cr 2.52 mg/dL,eGFR 15.4 mL/min./1.73m2と腎機能低下がみられた.入院後もオピオイドを継続していた.入院3病日に突然意識レベルがGCS E1V1M1にまで低下,さらに呼吸回数は5回/分と低下した.同日の採血においてもBUN 69mg/dL,Cr 2.27mg/dL,eGFR 17.3mL/min./1.73m2と腎機能低下が遷延しており,オピオイドが相対的に過量となり,呼吸抑制および意識障害が生じたと考えられた.オピオイドは速やかに中止し,ナロキソン塩酸塩0.1mgを投与したところ,意識清明となり呼吸回数は10回/分にまで改善した.しかし1時間ほど経過したところで再度意識障害および呼吸抑制が発生し,その後はナロキソン塩酸塩0.1mgを3回使用した.入院5病日にはがん疼痛が出現したため,フェンタニルクエン酸塩注射液0.3mg/日の持続皮下注射でオピオイドを再開した.入院9病日より終末期せん妄が出現,入院12病日に永眠した.
考察:がん終末期には様々な原因で意識障害および呼吸抑制が出現する.本症例においては,腎機能低下をきっかけに,オピオイドが相対的過量となったためと考えられた.終末期の意識障害は原因を是正しない方が患者のquality of lifeが保たれるという意見もあるが,本症例においては意識レベル改善時に家族との有意義な時間を過ごすことが可能であった.若干の文献的考察を加えて報告する.