講演情報

[P16-1-1]急性虫垂炎で紹介された若年者で右下腹痛を主訴とした上行結腸憩室炎による腸間膜内穿通の1手術症例

衣笠 哲史 (福岡みつき病院)
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【はじめに】一般的に,若年者が右下腹痛で来院した場合には急性虫垂炎,炎症性疾患(クローン病),悪性リンパ腫,大腸癌などが鑑別疾患としてあがる.今回,20歳代の若年者で右下腹痛を主訴とし,前医で急性虫垂炎と診断され紹介受診した上行結腸憩室炎による腸間膜内穿通をきたした症例を経験したので報告する.
【症例】21歳男性.受診前日夜より心窩部痛出現.翌朝になり右下腹痛出現.急患センター受診し,急性虫垂炎と診断され当院救急外来紹介初診.腹部診察の所見では,急性虫垂炎に矛盾する所見はなかったものの,念のため行ったCT検査にて虫垂の腫大は著明ではなく,上行結腸に憩室が多発していたため上行結腸憩室炎と診断し同日消化器内科に入院となった.入院後,絶食,抗菌剤投与などの保存的治療を行い,入院7日後には症状や血液検査にて改善を認めたため,食事を開始したところ上行結腸憩室炎が増悪し,造影CT検査にて腸間膜内に膿瘍形成確認されたため,保存的治療の限界と判断された.入院後10日目に緊急手術のため外科転科となり,手術施行した.手術所見としては,開腹したところ,やや混濁した漿液性腹水を認め,膿瘍は上行結腸腸間膜に手拳大に存在し大網が被覆していた.膿瘍は後腹膜との癒着が強固であり尿管との剥離を丁寧に行った.設定した腸管切離ラインの腸間膜内にリンパ節腫大を多数認めたため,それを含めた腸間膜切除をおこなった.結果として,結腸右半切除術となった.術後経過は順調で,術後14日目に自宅退院となった.術後病理組織学的検査では,盲腸から上行結腸の憩室破綻からの腸間膜膿瘍と診断された.虫垂や領域リンパ節などを含めて,悪性所見や炎症性腸疾患に特異的な所見は認められなかった.
【考察】結腸憩室の多くは慢性的な腸管内圧の上昇により抵抗の弱い結腸壁の筋層を貫いて粘膜が脱出して形成される仮性憩室である.結腸憩室は腸間膜対側に発症することが多く,腸間膜側結腸憩室はまれである.また,有症状の結腸憩室炎は40歳代から50歳代以降に多い.本症例のように若年者でも結腸憩室炎から膿瘍形成に至ることがあることを認識しておくことも必要だと思われた.