講演情報

[SR7-2]下部直腸癌に対してのISRの長期的予後および術後排便機能障害に関与する因子の検討

小杉 千弘, 幸田 圭史, 清水 宏明, 首藤 潔彦, 森 幹人, 野島 広之, 碓井 彰大, 岡 義人 (帝京大学ちば総合医療センター外科)
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【はじめに】下部直腸癌に対する括約筋間切除術(ISR)や外肛門括約筋部分切除を付加するpESRの長期成績と,術後排便機能障害の原因検索としての大腸内圧センサーによる残存大腸運動能測定結果について検討した.【対象】2007年11月から2019年3月までに当科でISRまたはpESRを施行した62例.男性47例,女性15例.年齢中央値65才(33 - 78).【結果】ISRの術式はpartial:subtotal:totalが3:54:5例.pESRを付加したものは16例.手術時間は236.3±50.8分,出血量は323.5±318.3ml.局所再発率は14/62例(22.6%).cT4と診断された症例に対して術前に放射線化学療法(CRT:11例)または化学療法(NAC:13例)を施行.CRTでは1例/11例で,NACでは4例/13例でpRM(+)となった.全症例の5年DFSは62.6%,5年局所DFSは77.3%,5年OSは83.1%だった.一時的人工肛門閉鎖は57例/62例で可能だった.術後排便機能障害として人工肛門閉鎖後1年目のWexner scoreは10.1±5.6点であった.NAC群で8.8±5.4,CRT群で11.1±6.5,術前治療未使用群で10.0±5.2となり,NACもCRTもWexner scoreの増悪と相関は無かった.LARSの原因検索目的に21例で残存大腸内圧センサーでの腸管運動能評価を施行したところ,新直腸に蠕動波が到達しない5症例は,蠕動波が到達する16例と比較し,排便回数が4.1回/日:6.4回/日と排便回数は少ない傾向を示したが,Wexner scoreおよびLARS scoreは11.2:11.0および26.0:25.8と有意差は認めず.新直腸にspasmが生じる5例は,spasmがない16例と比較し,排便回数が5.2回/日:6.1回/日と差はなく,LARS scoreにも差はなかったが,Wexner scoreは14.8:9.9と有意に悪く(p=0.03),患者満足度も32.0:58.1点(100点満点)と有意に悪かった(p=0.05).【結語】ISR対象症例に対してESR,CRT,NACなどの集学的治療を付加し肛門温存率は高い結果は得られるが,長期的に局所再発を来すこともあり,追加治療としてのAPRも必要となることもあり得る.また術後排便機能障害の原因として再建に用いる残存結腸運動能が関与していると考えられ,腸管蠕動賦活剤もしくは抑制剤の投薬などによる治療を考慮すべきであると考えられる.