講演情報
[P10-2-4]腹腔鏡下ISR術後粘膜脱に対しDelorme手術を施行した1例
市原 明子1, 市来 伸彦1, 千代反田 顕1, 濱田 朗子1, 山田 和之介1, 武野 慎祐1, 七島 篤志2 (1.宮崎大学医学部付属病院消化管・内分泌・小児外科, 2.宮崎大学医学部付属病院肝胆膵外科)
直腸癌に対する括約筋間直腸切除(ISR)は適応基準を慎重に検討したうえで行う肛門温存手術である.アプローチ法として腹腔鏡下,経肛門(Ta)併用およびロボット支援下手術と近年根治性のみならず低侵襲かつ機能温存を目的とした手術手技の工夫や取り組みが行われているが,術後の排便障害や粘膜脱について確立した治療法はない.2018年4月から2023年12月まで当科で施行したISRは13例で年齢中央値は52歳(31-71歳),男性10例,女性3例で直腸癌8例,直腸NET 3例,直腸GIST 2例であった.全例腹腔鏡下手術を施行し,一時的人工肛門を造設した.今回,人工肛門閉鎖した12例中1例で術後粘膜脱による排便障害が遷延し,Delorme手術が有効であった1例を経験したので報告する.症例は45歳男性.直腸NETの診断で腹腔鏡下partial ISR(D3)を施行しpTb,N1a,M0,pStageIIIaの結果であった.術後3か月目のストーマ閉鎖後16カ月目頃より1cm程度の粘膜脱を認め,頻便,失禁を伴う排便障害も遷延するため脊椎麻酔下,砕石位でDelorme手術を行った.吻合部の歯状線から5mm口測を粘膜切離ラインとしボスミン生食局注後に粘膜剥離を行い8cmの粘膜筒を形成した.9時方向の粘膜下筋層は術後で脆弱,易出血性であり,メッチェンと電気メスで慎重に剥離した.歯状線側から筋層を全周性に縫縮後,粘膜筒を切離し,粘膜断端同士を吸収糸で縫合して腸管の還納と肛門皮膚の内翻を確認した.手術時間102分,出血量少量で周術期の合併症なく,術後1年現在,排便障害は改善し粘膜脱の再発なく経過している.ISR後45カ月でNETの再発も認めていない.術後排便障害をきたしQOLに影響を及ぼす粘膜脱に対し,Delorme手術は安全に施行でき有効な治療選択肢となりえると考える.術後粘膜脱の機序を念頭に置き,ISRの際の手技の工夫など予防にも努めたい.