講演情報
[P2-1-2]診断に苦慮した腸間膜脂肪織炎に伴って虚血性腸管障害を生じた一例
大橋 弥貴子, 岡林 剛史, 富田 祐輔, 森田 覚, 清島 亮, 茂田 浩平 (慶應義塾大学病院一般消化器外科)
症例は,57歳男性.数週間前から続く腹痛,腹部膨満感を主訴に前医を受診した.CTにて下行結腸からS状結腸の壁肥厚を認めたことから,IMA領域の虚血性腸炎と診断された.下部消化管内視鏡検査では,粘膜の浮腫性変化を認めため非特異的な腸炎を鑑別疾患として禁食・抗菌薬加療が行われた.その後も症状は改善せず,CT上,下行結腸狭窄の増悪,腸間膜の肥厚および脂肪織濃度の上昇を認めるようになった.腸間膜脂肪織炎とそれに伴う静脈還流障害による虚血性腸管障害が疑われ,低用量ステロイドの投与を行った.その後,大腸内視鏡で,下行結腸から直腸まで広がる広範な粘膜の浮腫性変化に加えて多発縦走潰瘍を認めた.保存的加療に不応と診断し,当院に転院搬送となった.当院ではまず,大腸の安静を図るために回腸人工肛門造設術を施行した.腸管虚血の評価のために術中ICG検査を行ったが,明らかな血流障害は認められなかった.その後施行した大腸内視鏡検査では,粘膜の浮腫性変化および縦走潰瘍は改善し,術後38病日に退院となった.退院後,3か月後に施行した大腸内視鏡検査および注腸検査で下行結腸に狭窄が残存したため,回腸人工肛門閉鎖術および腹腔鏡下左半結腸切除術を施行した.病理組織学検査にて,下行結腸漿膜下脂肪組織に線維化,慢性炎症細胞浸潤を認めたが,血管炎の所見はなかった.以上より腸間膜脂肪織炎に伴う虚血性腸炎と診断をした.腸間膜脂肪織炎は比較的まれな疾患であるが,本症例のように高度な虚血性腸炎を併発することは少ない.今回二期的な手術が有効であった症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.