講演情報
[P22-2-5]肛門周囲膿瘍で発症した肛門腺由来肛門管癌の一例
前本 遼, 佐藤 総太, 伊藤 拓馬, 三原 開人, 海野 陽資, 佐々木 将貴, 服部 晋明, 岩﨑 純治, 金澤 旭宣 (島根県立中央病院外科・消化器外科)
症例は60歳代の男性.3日前からの発熱と肛門痛で近医を受診し,肛門周囲膿瘍の診断で当院へ紹介となった.肛門外観に異常所見はなく,9時方向の殿部に発赤・硬結を認めたが,排膿はなかった.肛門鏡・触診では明らかな原発口を認めなかった.肛門周囲膿瘍・痔瘻の既往はなかった.血液検査では炎症反応の上昇を認め,腹部造影CT検査では下部直腸から肛門管右側に内部にairを伴う液体貯留を認め,炎症は殿部皮下にまで及んでいた.高位の肛門周囲膿瘍と診断し,CTガイド下ドレナージ術を行い,膿汁を排液した.ドレナージ後は速やかに炎症所見や肛門痛も改善し,ドレナージ術後7日目にチューブを抜去し退院となった.退院後,殿部右側に波動を伴う硬結を認め,一部が自壊し排膿を認めたため,自壊部からドレーンを挿入し経過を見ていた.その後,ドレーン刺入部の皮膚に腫瘤形成を認め,生検で腺癌の診断となり,肛門管癌の診断で腹腔鏡下直腸切断術を施行した.病理所見では,直腸から肛門管に全周性の110×90mmの狭窄性腫瘤を認めた.組織学的には粘膜下に粘液産生性腺癌の浸潤を認めるが,粘膜には癌組織を認めず,肛門腺由来肛門管癌pT4,N0,V1a,Ly1a,BD1,Stage IIと診断した.BRAF変異陰性,RAS変異陰性,HER2陰性,MSI陰性であり,術後補助化学療法としてカペシタビン+オキサリプラチン療法を行い,術後1年の経過で再発は認めていない.肛門腺由来肛門管癌は病変の首座が肛門管壁内にあるため,粘膜に癌組織がほとんど認められない腺癌と定義されており,本症例のように痔疾患と類似する臨床症状を呈することが多く,注意が必要である.文献的考察を含めて報告する.