講演情報
[O13-3]側方リンパ節腫大を伴う進行下部直腸癌に対する術前治療後の側方リンパ節郭清の意義について
山下 真司1, 川村 幹雄1, 家城 英治1, 嶌村 麻生1, 水野 成1, 市川 崇1, 浦谷 亮1, 今岡 裕基1, 志村 匡信1, 北嶋 貴仁1,2, 安田 裕美1, 大北 喜基1, 吉山 繁幸1, 奥川 喜長1,2, 大井 正貴1, 問山 裕二1 (1.三重大学消化管小児外科, 2.三重大学ゲノム医療部)
【背景】進行下部直腸癌に対し,本邦では直腸間膜全切除(TME)+側方リンパ節郭清(LPND)が標準治療とされてきた.近年,本邦でもtotal neoadjuvant therapy(TNT)の普及に伴い,watch and wait(W&W)や局所切除などの縮小手術が脚光を浴びている.当科では2000年から進行下部直腸癌に対して術前化学放射線療法(NACRT)を施行し,効果判定を行ったのち側方リンパ節転移陰性と判断される症例にはLPNDを省略したTMEを実施してきた.2018年からはTNTを導入し,clinical Complete Response(cCR)症例に対するW&W症例も増加傾向にある.今回,当科で術前治療(NACRT,TNT)を行った治療前側方リンパ節転移陽性症例の腫瘍学的予後について後方視的に検討した.【対象と方法】2011年1月から2022年5月までに当院で下部直腸癌かつ側方リンパ節転移陽性と診断され,NACRTあるいはTNTが実施された32例を対象とし,腫瘍学的予後について検討した.【結果】年齢中央値(範囲)は62(41-85)歳で,男性が20例,女性が12例であった.NACRTは22例,TNTは10例に施行され,NACRTの1例(4.5%)ならびにTNTの4例(40%)がcCRと判断され,手術を回避してW&Wが行われた.TMEを施行した27例のうち,LPNDが行われたのは6例であり,このうち2例(33.3%)が病理学的に転移陽性であった.再発様式としては遠隔が9例(28.1%),局所再発が計4例(12.5%)にみられたが,側方リンパ節への転移再発は1例(3.1%)であった.LPNDの実施の有無は,全生存期間(OS),無再発生存期間(DFS),局所無再発生存期間(LRFS)において有意差を生じなかった.また,OS,DFS,LRFSにおける単変量解析でも,LPNDの省略はリスク因子として描出されなかった.TNTとNACRTを比較すると,TNT実施群はDFS(p=0.04)について有意に予後良好であった.【結語】治療前側方リンパ節転移陽性症例に対して,術前治療により約8割の症例にLPNDを省略したが,側方リンパ節再発は低率であり,腫瘍学的予後に関して有意差を生じなかった.治療前側方リンパ節転移陽性症例に対するLPNDの省略については議論が続けられているが,TNTの普及に伴ってより一層の検討が必要であると考えられた.