講演情報
[P7-1-1]潰瘍性大腸炎高齢症例に対する臨床経過・排便機能からみた肛門括約筋機能温存術の可能性―前期高齢症例と後期高齢症例の比較―
奥津 康子, 小金井 一隆, 辰巳 健志, 黒木 博介, 後藤 晃紀, 小原 尚, 中尾 詠一, 齊藤 紗由美, 杉田 昭 (横浜市立市民病院炎症性腸疾患科)
【目的】潰瘍性大腸炎(以下,UC)高齢手術例に対する大腸全摘,回腸嚢肛門管吻合術(以下,IACA)後の術後経過と排便機能から括約筋温存術の適否を検討する.
【対象・方法】高齢者UCに対するIACA施行例を,後期高齢者75歳以上(A群)と65~74歳群(B群)の2群に分け,臨床学的背景,術後合併症や排便機能を後方視的に検討した.
【結果】当院では便失禁がなく,tonus良好,下部直腸に進行癌がなく,患者が希望した場合に括約筋温存術を施行している.A群は17例,B群は86例で,UC発症時平均年齢はそれぞれ,65.6歳(40~78),59.9歳(23~73),手術施行時平均年齢は77.7歳(75~86),68.9歳(65~74),UC診断から手術までの平均期間は12.0年(0~40.2),9.0年(0~43),手術適応は難治/重症/癌またはhigh grade dysplasia/その他で,A群は6例/5例/6例/0例,B群は44例/24例/16例/2例であった.入院中のClavien-Dindo分類(CDC)III以上の合併症は,A群で5例(29.4%),うち1例が在院死亡,B群で15例(17.4%),うち3例が在院死亡で,両群間で発生率に有意差はなかった.術後入院期間は平均で31.6日(14~122)と37.0日(14~271)であった.退院後のCDCIII以上の合併症発生率は,A群が1例(5.9%),B群が17例(19.8%)で,両群間で有意差はなかった.回腸嚢炎加療例はそれぞれ4例(23.5%),13例(15.1%)で両群間に有意差は認めなかった.術後排便機能を術後1年/2年/3年/4年/5年の経時変化でみると,一日排便回数は中央値で,A群は5(3.5~15.5)/6.5(4~8)/5(3.5~8)/4.75(2.5~9)/5(2.5~8),B群は6.5(2.5~20)/6.5(2~20)/7(2.5~20)/6.5(2.5~20)/7(1.5~15)で,有意差はなく,soiling発生率はA群で33.3/20.0/0/0/20%,B群は8.1/6.2/5.3/5.6/2%で,B群で少ない傾向であったが,有意差はなかった.観察期間中,両群とも回腸嚢機能不全症はなく,癌またはHGD症例に癌再発は認めなかった.
【結語】潰瘍性大腸炎高齢手術症例でも適応を選んで括約筋温存術が可能な症例がある.特に75歳以上の後期高齢者でも回腸嚢肛門管吻合術後の排便機能は65~74歳群と比較しても有意差はなく,括約筋温存術の適応となる症例があることが示唆された.
【対象・方法】高齢者UCに対するIACA施行例を,後期高齢者75歳以上(A群)と65~74歳群(B群)の2群に分け,臨床学的背景,術後合併症や排便機能を後方視的に検討した.
【結果】当院では便失禁がなく,tonus良好,下部直腸に進行癌がなく,患者が希望した場合に括約筋温存術を施行している.A群は17例,B群は86例で,UC発症時平均年齢はそれぞれ,65.6歳(40~78),59.9歳(23~73),手術施行時平均年齢は77.7歳(75~86),68.9歳(65~74),UC診断から手術までの平均期間は12.0年(0~40.2),9.0年(0~43),手術適応は難治/重症/癌またはhigh grade dysplasia/その他で,A群は6例/5例/6例/0例,B群は44例/24例/16例/2例であった.入院中のClavien-Dindo分類(CDC)III以上の合併症は,A群で5例(29.4%),うち1例が在院死亡,B群で15例(17.4%),うち3例が在院死亡で,両群間で発生率に有意差はなかった.術後入院期間は平均で31.6日(14~122)と37.0日(14~271)であった.退院後のCDCIII以上の合併症発生率は,A群が1例(5.9%),B群が17例(19.8%)で,両群間で有意差はなかった.回腸嚢炎加療例はそれぞれ4例(23.5%),13例(15.1%)で両群間に有意差は認めなかった.術後排便機能を術後1年/2年/3年/4年/5年の経時変化でみると,一日排便回数は中央値で,A群は5(3.5~15.5)/6.5(4~8)/5(3.5~8)/4.75(2.5~9)/5(2.5~8),B群は6.5(2.5~20)/6.5(2~20)/7(2.5~20)/6.5(2.5~20)/7(1.5~15)で,有意差はなく,soiling発生率はA群で33.3/20.0/0/0/20%,B群は8.1/6.2/5.3/5.6/2%で,B群で少ない傾向であったが,有意差はなかった.観察期間中,両群とも回腸嚢機能不全症はなく,癌またはHGD症例に癌再発は認めなかった.
【結語】潰瘍性大腸炎高齢手術症例でも適応を選んで括約筋温存術が可能な症例がある.特に75歳以上の後期高齢者でも回腸嚢肛門管吻合術後の排便機能は65~74歳群と比較しても有意差はなく,括約筋温存術の適応となる症例があることが示唆された.