講演情報

[P1-1-1]慢性心不全を合併した大腸癌患者に対する腹腔鏡下手術の術中血行動態の変動についての検討

大﨑 真央, 植村 守, 中上 勝一朗, 竹田 充伸, 関戸 悠紀, 波多 豪, 浜部 敦史, 荻野 崇之, 三吉 範克, 土岐 祐一郎, 江口 英利 (大阪大学大学院医学系研究科外科学講座消化器外科学)
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【はじめに】
大腸癌に対する腹腔鏡下手術は開腹手術と比較して低侵襲であり,合併症発生率および長期成績は同等であることから,腹腔鏡下手術は大腸癌手術の選択肢の1つとして受け入れられている.しかし,腹腔鏡下手術は気腹や体位変換による循環変動が大きいことが予測され,心不全患者への適応は慎重に検討する必要がある.心疾患を合併した大腸癌患者に対する腹腔鏡下手術を安全に行えるかを検討した報告はほとんどなく,術中血行動態の変動について検討を行った.
【対象・方法】
2013年1月から2024年3月にかけて当院で大腸癌に対して腹腔鏡下手術を行った重症慢性心不全の症例を対象とした.重症慢性心不全の定義は左室駆出率(LVEF)40%未満または脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)>100 pg/mLまたはN末端プロ脳性ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)>400 pg/mlのいずれかを満たすものとした.術中の収縮期血圧,拡張期血圧,平均血圧,心拍数などの血行動態について後方視的に評価した.血圧,心拍数は,麻酔導入前,麻酔導入15分後,気腹開始および体位変換直後,気腹開始および体位変換15分後に評価した.
【結果】
腹腔鏡下手術施行例が46例,ロボット支援手術施行例が10例であった.LVEF中央値は51%(7 - 82%),BNP中央値は144.1 pg/ml(42.1 - 1109.8 pg/ml)であった.手術時間中央値は250.5分(135 -793分),総気腹時間中央値は203.5分(100 - 610分),術中出血量中央値は40 ml(0 -1550 ml)であった.平均血圧は全身麻酔導入15分後に低下していた.56例中22例で術中にカテコラミンが使用されていた.全例で手術は予定通り遂行された.術後在院日数の中央値は15日(8 - 97日)で,Clavien-Dindo分類IIIa以上の術後合併症はCO2ナルコーシスを1例,腹腔内出血を1例認めたが,その他の重篤な合併症を認めなかった.
【結語】
大腸癌に対する腹腔鏡下手術は重症慢性心不全患者でも厳重な全身管理下に安全に施行できることが示された.