講演情報

[VPD5-2]低位筋間単純痔瘻(IILs痔瘻)の細分類と治療戦略

松田 聡, 尾田 典隆, 新井 賢一郎, 相川 佳子, 松永 篤志, 山下 真幸, 相澤 万里枝, 野中 雅彦, 木村 浩三, 中井 勝彦, 川上 和彦 (松田病院大腸肛門病センター)
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<はじめに>
 痔瘻型の診断は術式選択の上で重要だが,同じ痔瘻型でも瘻管の深さ,長さ,二次口の位置,感染の程度,患者背景,など様々である.従って同じ痔瘻型,同じ術式でも画一的な手術手技ではなく,症例毎に「術中の評価と調整」が必要となる.当院はIILs痔瘻に対して,前側方はCoring out+loose seton法(CO+ST),後方(5時-7時)はLay open法(LO)を基本術式としている.当院におけるIILs痔瘻に対する術中の評価ポイントとその対応について述べる.
 <術中の痔瘻評価ポイント>
 ①  病期の評価
 膿瘍期/中間期/痔瘻期に分けられる.明らかな膿瘍期は切開排膿術に留める.膿瘍が小さい場合や瘻管形成が不十分な中間期は基本的に根治術を行うが,不良肉芽を貯留したスペースが大きい場合は難治創を形成するリスクが高いため切開排膿術に留める.
 ②  tonusの評価
 高齢者の後方痔瘻には注意が必要である.tonusが低い症例,術中の触診で括約筋が薄い症例は後方痔瘻でも肛門機能に配慮しLOを避けCO+STとする.
 ③  二次口の位置
 後方痔瘻の中には瘻管が斜走し側方に二次口を有する症例がある.二次口が4-8時以外の症例はLOを行うと浅外括約筋を含めた括約筋損傷が大きくなるためCO+STを選択する.
 ④  肛門縁から二次口までの距離
 二次口が肛門から遠い前側方痔瘻はsetonのかかる距離を短くするためcoring outの皮膚切開をなるべく中枢側に寄せた楕円形の創とする.瘻管が外括約筋を大きく貫いて肛門縁から5cm以上遠くに開口する症例は,治癒期間,括約筋損傷に配慮し,setonを二分割し中枢側はcutting seton,抹消側はdrainage setonとする.
 ⑤  裂肛痔瘻の評価
 裂肛を原発口としたいわゆる「裂肛痔瘻」と呼ばれる皮下痔瘻と,IILs痔瘻が裂肛に開口したものがある.色素法,ゾンデ法でcryptとの交通を見逃さないことが重要である.
 <おわりに>
 IILS痔瘻を「機能温存しながら確実に治癒させる」ために,術者は痔瘻分類表にはない細分化した術中所見によるアルゴリズムを備えておく必要がある.その詳細をビデオ中心に供覧する.