講演情報

[P21-1-5]内腸骨静脈―下腸間膜静脈シャントを有する直腸癌患者に対して安全に腹腔鏡下低位前方切除術を施行し得た1例

小嶋 大也, 西川 元, 中西 宏貴, 水野 礼, 畑 啓昭 (国立病院機構京都医療センター外科)
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【症例】
症例は5x歳女性,多発性腎嚢胞による末期腎不全で人工透析が導入されているRb直腸癌の患者.cT1N0M0 cStageIの術前診断であったが,術前の造影CT画像で拡張した下腸間膜静脈(IMV),上直腸静脈(SRV)と共に,Rb直腸病変の右側に著明に拡張し蛇行した直腸静脈瘤が認められた.IMVから中直腸静脈(MRV)を経由し内腸骨静脈(IIV)へ至る下腸間膜静脈-内腸骨静脈シャントと判断された.直腸癌切除のため,静脈瘤近傍の剥離とシャント血管の処理が必要となるが,骨盤腔内での出血のリスクが高い上に,透析患者と基礎疾患も考慮すると非常に周術期リスクが高い症例と判断された.術前に多科合同で検討し,大動脈クランプ(大動脈バルーンクランプ;IABO)と,悪性疾患ではあるもののセルセーバーを準備し,腹腔鏡下低位前方切除術を行う方針となった.術前の画像診断で,IMVの造影剤濃度が直腸静脈瘤のものと比較し高く,造影剤の濃度勾配からIMVから静脈瘤へ流入しMRVを経てIIVへ流入しているものと判断された.従って,通常通りIMVを中枢で先行処理することで,門脈血の流入が阻止され静脈瘤は縮小するものと想定し手術に望んだ.
【手術】
全身麻酔導入後,IABO用の動脈シースを留置した上で,型通り腹腔鏡下手術を開始した.想定通り,直腸右側に確認された怒張した静脈瘤は,下腸間膜動脈,IMVを処理することで虚脱し,通常の直腸低位前方切除術の操作を行うことができ,直腸右側で虚脱したシャント血管を切離する事ができた.術中目立った出血なく,手術時間9時間36分,出血量120ml,輸血なしで手術終了した.
【考察】
直腸静脈瘤は門脈圧亢進を背景に側副血行路として発達すると考えられており,本症例でも食道周囲静脈,脾静脈の軽度拡張を認め,門脈圧亢進の影響で発生したものと想定された.直腸静脈瘤を有する下部直腸癌症例は骨盤内での出血のリスクは非常に高いものの,術前に十分な協議を行ったうえでリスクマネジメントを行い,安全に手術を施行し得たため報告する.