講演情報

[P19-1-1]診断に苦慮した直腸憩室由来骨盤内粘液腺癌の1例

宮前 眞人, 小林 利行, 満田 雅人, 渡邉 信之, 中島 慎吾, 中瀬 有遠, 菅沼 泰, 稻葉 征四郎 (市立奈良病院外科)
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はじめに:きわめて稀な直腸憩室に由来する粘液腺癌の1例を経験したため報告する
症例:82歳女性,強い下腹部痛を認め近医を受診し単純CTで骨盤内に最大長径7cmにおよぶ嚢胞状の占拠性病変を指摘,卵巣嚢腫茎捻転を疑われ当院婦人科に紹介となったが婦人科診察では子宮附属器に異常なし,腹部造影CTを施行したところ病変は直腸固有間膜内もしくはダグラス窩に局在し近傍直腸壁の肥厚狭窄と口側腸管の拡張を認めた.直腸穿通による直腸間膜内膿瘍や直腸穿孔によるダグラス窩に限局した膿瘍を疑い入院,保存的治療を開始しつつ精査を継続し骨盤MRIでは腫瘍性病変の疑いが強く下部消化管内視鏡検査では壁外圧迫を伴う潰瘍を認めたものの直腸粘膜に腫瘍性変化なし.診断確定を目的としてEUS-FNAおよびボーリング生検を行い粘液腺癌の病理診断を確定したものの原発巣は不明.明らかな遠隔臓器転移や腹膜播種を認めなかったため,虫垂・卵巣・および直腸由来の粘液腺癌を鑑別に挙げて根治切除を行う方針とし,入院23日目に後方骨盤内蔵全摘術(直腸低位前方切除術+子宮両側附属器切除術+虫垂切除術)を施行,術中所見では腹膜播種を認めず虫垂および子宮附属器は正常,病変は直腸固有間膜内に限局する嚢胞性腫瘤で,total mesorectal excisionで根治的切除が可能と判断,途中嚢胞壁の破綻と粘液漏出を認めたものの速やかに吸引洗浄を行って対応,DST法で再建し手術時間3時間29分出血1245mlで手術を終了した.病理組織診断では直腸漿膜下組織に首座をおく腫瘍で正常粘膜に裏装された仮性憩室より発生した粘液癌を主体とする腺癌を認め,immunoprofileでもCK20/CDX2強陽性で直腸腺癌として矛盾しない結果であった.術後は合併症なく経過し術後16日目に軽快退院,高齢のため術後補助化学療法は希望されず現在術後1年間無再発生存中である.
考察:直腸憩室に由来する粘液腺癌は極めてまれで検索する限りでは1例の文献報告を認めるのみであった.術前に完全な診断に至ることは容易ではないが,粘液腺癌の診断が確定し根治切除が可能であれば根治切除による診断と治療を行う方針は妥当である.