講演情報

[P21-2-3]直腸癌術後再発との鑑別が困難であったimplantation cystと考えられた1例

大西 一穂, 赤本 伸太郎 (住友別子病院)
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【症例】60歳台,男性.RSの進行直腸癌でロボット支援下腹腔鏡下高位前方切除術を施行し,病理検査ではtub2>muc>por2,INF b,Ly 1a,V 1a,Pn 1b,pT3N1M0,Stage3bであった.術後補助化学療法としてcapeOXを4コース施行した.術後6ヶ月のCTで吻合部に嚢胞性の部分を指摘され,術後8ヶ月のCTで軽度の増大傾向を認めた.内視鏡検査では表面が正常粘膜の隆起を認めた.MRIではT2高信号,DWI無信号の均一な境界明瞭な吻合部の嚢胞性腫瘍と診断した.EUS-FNAによる細胞診では細胞成分が検出されず,粘液のみという結果だった.腫瘍マーカーは初回手術時から一貫して陰性であった.増大傾向であること,初回切除標本の一部に粘液癌の成分を認めたことから直腸癌の粘液癌としての局所再発の可能性が高いと考えた.壁外に突出していたためCRMの確保を考え,術前CRT(capecitabine+RT50.4Gy)を施行した後に初回手術後1年で手術を施行した.CRT後の画像検査では腫瘍の縮小は認めなかった.ロボット支援下腹腔鏡下低位前方切除術を施行し,腫瘍側の左側は自律神経を合併切除し,回腸双孔式人工肛門を造設した.腫瘍周囲の剥離は非常に容易であった.術後合併症は認めず,補助化学療法も施行せず,再手術後3ヶ月で人工肛門閉鎖術を施行し,再手術後1年7ヶ月の現在再発所見を認めていない.病理検査では粘液の貯留を認めたが,粘液結節内に細胞成分や腫瘍の壊死を示唆する所見は認めなかった.
 【考察】本症例は,吻合操作によって腸粘膜上皮が折れ込んで粘膜下層以深に置換され,置換された上皮が持続的に粘液を産生して囊胞化するために発生すると考えられているimplantation cystか,吻合部再発の粘液癌がCRTで腫瘍細胞が死滅したかのいずれかである.PET陰性,CRT後の腫瘍の縮小がないのに細胞成分を腫瘍内に認めなかったことより,CRTが著効した再発よりは,希な良性疾患であるimplantation cystを強く疑っている.
 【結語】診断に難渋したimplantation cystと思われる直腸癌術後吻合部嚢胞性腫瘍の1例を経験した.