講演情報

[P2-1-1]NOMIに対する保存的加療中,トロポニン-I(Tn-I)の経時的上昇と大腸壊死を併発した一例

橋本 拓造1, 白鳥 敏夫1, 安田 一弘1, 地原 想太郎1, 小山 旅人1, 市原 広基1, 釘宮 陸博2 (1.大分市医師会立アルメイダ病院外科, 2.大分市医師会立アルメイダ病院臨床検査部)
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腸間膜血管主幹部に器質的狭窄を伴わない非閉塞性腸間膜虚血疾患である非閉塞性腸虚血(NOMI)は腸管虚血に感染が相まって病態が完成する.その発生機序として脱水等による重度の循環障害が発症した結果,相対的心筋虚血状態を代償するために腸管血流が低下することで腸管の虚血・壊死を来たす.門脈気腫・腸管気腫や腸管壁の造影不良・菲薄化といった間接的所見は認められるものの,本疾患群に特異的な画像所見はなく有益なマーカーの報告もない.トロポニン-I(Tn-I)は筋肉を構成する蛋白質の一つで心筋特異性が高く,心筋障害を反映するが,急性上腸間膜動脈閉塞症においても約半数の症例でTn-Iが上昇していたことが報告されている.今回NOMIに対する保存的加療中,トロポニン-I(Tn-I)の経時的上昇と大腸壊死を併発した一例を経験したので報告する.症例は74才男性.糖尿病と冠動脈バイパス術の既往あり.慢性腎不全にて維持透析中に嘔吐・下血をきたし紹介入院となった.CTにて回腸に広範な浮腫性壁肥厚と造影不良域・腸管気腫および門脈気腫を認めたが,翌日のCTでは門脈気腫は消失し回腸の造影効果も回復していたことから併存疾患や全身状態を鑑み保存的加療の方針とした.しかし,入院5日目のCTで大腸全体の浮腫性壁肥厚が出現し,8日目のCTでは小腸拡張とS状結腸の浮腫性壁肥厚増悪および腹水の増加を認めた.腹部症状の改善に乏しく保存的加療の限界と判断し同日緊急手術を施行した.術中所見としてTreitz靱帯から全小腸を観察すると回腸レベルで2カ所に漿膜虚血所見,大腸ではS状結腸~上部直腸に広範な壊死を認め,小腸部分切除とハルトマン手術を施行した.本症例は入院時CTにて下腸間膜動脈起始部で血栓性閉塞しており,かつ入院時からTn-Iの経時的上昇(61.3→307.3→313.1)を認めていた.遅発性に結腸壊死を来たした要因として,側副血行路で栄養されていたIMA領域が血流低下により壊死したものと考えられた.