講演情報
[P6-1-3]生検後に自然退縮を認めた上行結腸進行癌の1例
出川 佳奈子1, 中野 佳子2, 西川 元1, 井上 広海1, 庭野 公聖1, 小嶋 大也1, 末永 尚浩1, 堀 佑太朗1, 中西 宏貴1, 中西 保貴1, 水野 礼1, 中村 公治郎1, 畑 啓昭1 (1.国立病院機構京都医療センター外科, 2.国立病院機構京都医療センター消化器内科)
【はじめに】悪性腫瘍の自然退縮例は稀であるが,なかでも大腸癌の自然退縮は頻度が少ないとされている.今回,内視鏡で確認された進行上行結腸癌が,手術標本では腫瘍が確認されず,自然退縮が疑われた一例を経験したため報告する.【症例】90歳男性.腹部膨満感の精査目的に施行した下部消化管内視鏡検査で,上行結腸に半周性の2型腫瘍があり,生検で中分化型腺癌を認めた.また,横行結腸にも半周性の3型病変があり,生検で高~中分化型腺癌を認めた.術前画像では上行結腸の所属リンパ節の1つに腫大を認めたが,遠隔転移はなかった.高齢で併存症もあるものの耐術ありと判断し,上記2病変に対して,腹腔鏡下結腸拡大右半切除術を施行した.切除標本では,横行結腸病変は2型腫瘍として認めたが,上行結腸病変は潰瘍瘢痕を認めるものの,術前に指摘された2型腫瘍は確認されなかった.病理診断では,横行結腸病変は漿膜面まで浸潤する高~中分化型腺癌が確認され,上行結腸病変には潰瘍瘢痕と粘液貯留を認めるのみで,腫瘍成分は認めなかった.上行結腸の所属リンパ節の1個に転移を認め,豊富な粘液内にごく少数の浮遊する印鑑細胞様の腫瘍細胞が確認され,上行結腸病変とリンパ節病変の自然消退が示唆された所見であった.ミスマッチ修復(以下MMR)遺伝子異常を持つ大腸癌の自然退縮が報告されていることから,MMR遺伝子異常を検索した結果,上行結腸癌の生検検体の免疫染色ではMLH1弱陽性,MSH2陽性,PMS2陰性,MSH6陽性の結果で,MMR機能欠損,横行結腸病変はMLH1,MSH2,PMS2,MSH6すべて陽性でMMR機能正常と判定された.【考察】MMR機能正常の病変は変化がない一方で,MMR機能異常大腸癌のみが自然消退を来たしていた事が同一検体内に確認された事から,MMR遺伝子異常が自然消退の機序に関与している事が強く示唆された.MMR遺伝子異常大腸癌は腫瘍特異的新規抗原(Neoantigen)が多く発現し,強い免疫応答が働くとされている.本症例では,併存症のコントロールのため内視鏡的生検採取後3ヶ月での手術実施となり,その間に生検による組織侵襲によって惹起された免疫反応が,腫瘍の自然消退を引き起こした可能性が示唆された.