講演情報
[VSY2-5]裂肛に対する日帰り手術の成績―皮膚弁移動術の有用性について―
樽見 研1, 吉田 幸平2 (1.札幌駅前樽見おしりとおなかのクリニック, 2.新宿おしりのクリニック)
【はじめに】肛門診療を中心とする無床診療所において裂肛は最も遭遇する疾患である.裂肛は肛門上皮の裂創なので治療の基本は外用薬と排便のコントロールであるが,それだけでは治癒しない症例も多く経験する.肛門狭窄を来たした裂肛には外科的治療に踏み切れるが,外科的治療の選択の判断に迷うのは肛門狭窄を来たしていないのに裂肛が治癒しなかったり,治癒しても頻回に繰り返したりする難治性の裂肛である.当院ではそのような症例に対しはこれまで侵襲の少ない用手的に行う肛門拡張術(anal dilation:AD)を施行することが多かったが,ADでは症状が改善しなかったり再発したりする症例も多いため最近ででは積極的に皮膚弁移動術(sliding skin graft:SSG)を施行している.今回当院でSSGを施行した症例の成績をADを施行した症例と比較しながら検討した.【対象と方法】2020年4月~2023年3月の3年間に裂肛に対する手術を施行した症例は198例だった.そのうちADを選択した症例(AD群)は106例(21例で肛門ポリープやskin tagの随伴病変を切除),SSGを選択した症例(SSG群)は92例(31例で随伴病変を切除)だった.【結果】背景因子をみるとAD群の年齢は17歳~71歳(平均28.5歳),SSG群の年齢は32歳~88歳(平均47.3歳)とAD群で有意に若い傾向にあった.男女差に有意差はなかった.術後成績であるがAD群では完治した症例(術後に症状が完全に消失し外用薬を使用していない症例)は71例(有効率67.0%)だった.残りの効果のなかった35例(33.0%)のうち18例はそのまま外用薬などの保存的治療で経過をみており,7例は再度ADを施行し,残りの10例はSSGを施行した.AD群では術後の合併症はなかった.SSG群では完治した症例は91例(有効率98.9%)であり,1例のみ排便痛が継続しており外用薬で経過観察となっている.術後の合併症であるが術当日の創辺縁からの出血が1例(1.1%),soilingを3例(3.2%)認めたが,排便のコントロールで症状は改善した.【結論】裂肛に対する術式としてSSGは有効率高く術後合併症も少なく第一選択として有用な術式と思われた.