講演情報

[P16-2-4]クローン病に合併した痔瘻癌の3例

磯部 聡史, 吉敷 智和, 小嶋 幸一郎, 麻生 喜祥, 飯岡 愛子, 若松 喬, 本多 五奉, 片岡 功, 金 翔哲, 代田 利弥, 後藤 充希, 田中 佑治, 須並 英二 (杏林大学医学部付属病院下部消化管外科)
PDFダウンロードPDFダウンロード
【緒言】
 クローン病は痔瘻を合併することが多く,稀ではあるが痔瘻癌を合併することが報告されている.痔瘻癌の標準治療は外科的治療であり,近年では術前CRTを行うことで良好な局所制御が可能となったとされる報告がみられているが,確立された治療方針は存在しない.
 【症例】
 症例1:43歳男性.24年の罹病期間があり,肛門周囲膿瘍を伴う痔瘻癌,多発肝転移の診断で,人工肛門造設術後に化学療法を施行した.肛門周囲膿瘍の再燃により化学療法の施行が困難となり,痔瘻癌の病勢増悪により診断後1年で死亡した.
 症例2:50歳男性.30年以上の罹病期間があり,肛門周囲膿瘍を伴う痔瘻癌の診断で人工肛門造設後に術前CRTを開始したが,肛門周囲膿瘍の再燃でCRT中断となった.その後,肺・肝転移の出現を認め切除不能となり化学療法を継続した.診断後1年6カ月で死亡した.
 症例3:52歳男性.26年の罹病期間があり,肛門周囲膿瘍を伴う痔瘻癌の診断で術前CRTを施行した.CRT施行8週間後に開腹腹会陰式直腸切断術,大腿皮弁術を施行した.術後3年無再発生存している.
 【考察】
 3症例とも10年以上の罹病期間を認め,初診から痔瘻癌の診断に至るまでの期間は約2カ月であった.
 全例で初回受診時に肛門周囲膿瘍を伴っており,症例1,2においては感染コントロールに難渋したことで痔瘻癌に対する化学療法,放射線療法を十分に施行することが困難となった.症例3では肛門周囲膿瘍が早期に改善し,速やかにCRTの導入,手術加療を行うことができ,術後3年無再発生存を得られている.
 クローン病の痔瘻癌では症例1,2のように難治性痔瘻,肛門周囲膿瘍により感染コントロールが困難となり,化学療法や局所制御を目的とした術前CRTの導入が困難となる可能性がある.しかし症例3のように術前CRTを施行することで切除断端陰性を確保し,長期生存を得られる可能性がある.
 【結語】
 クローン病に合併した痔瘻癌の3例を経験した.
クローン病に合併した痔瘻癌は,悪性腫瘍と感染の混在する病態である.感染のコントロールと外科治療を含めた集学的治療の施行の両立が治療の課題である.