講演情報

[R11-4]早期下部直腸癌に対してW&W(Watch and wait)を視野にいれたTNT(total neoadjuvant therapy)の現状

安達 智洋, 清水 亘, 好中 久晶, 近藤 賢史, 徳本 憲昭, 檜原 淳 (広島市立北部医療センター安佐市民病院)
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【背景】
日本における下部直腸癌の標準治療は根治手術である.しかしながら,肛門機能低下による排便障害や人工肛門造設時における日常生活の変化のため,根治性と日常生活を考慮した治療選択が必要である.
 当院では,2022年7月からTNTを導入し,患者に標準治療は手術と説明し,オプションとしてTNTを希望した場合には,TNTを施行している.TNTはW&Wを目指せる腫瘍径5cm以下でcT1b-T3N0M0cStageI-IIに対しては,CRT(カペシタビン+45Gy/25fr)とCAPOX 4コースを施行し,cCRであればW&Wを選択している.
【目的】
早期下部直腸癌に対してTNTを施行した症例に対して臨床病理学的に検討する.
【対象・方法】
当院で2022年7月~2024年2月まで下部直腸癌においてTNTを24例施行した.そのうち,TNTを終了したcStageI-II下部直腸癌9例に対して後ろ向きに解析した.
【結果】
全症例9例のうち年齢の中央値は65歳(50-80),性別は男性6例,女性3例.AVからの距離は中央値5cm(0-7cm),腫瘍径の中央値は39mm(16-48mm)だった.cT1b/T2/T3=2例/3例/4例であった.TNTのレジメンは全症例CRT後にCAPOX4コース施行し,CTCAEv5.0のGrade3以上の有害事象は3例(好中球減少/血小板低下/食欲低下)に認めたが,TNT完遂率は100%であり,治療中の病勢増悪は認めなかった.再評価の最終結果cCR/nearCR(nCR)/incompleteCR(iCR)=5例(55.6%)/1例(11.1%)/3例(33.3%)であり,6例(66.7%)はW&Wを選択し,現時点では全症例再増大や転移を認めていない.iCR全3例で手術を施行し,全例ロボット支援下手術(超)低位前方切除術+一時的回腸人工肛門造設術を施行し,全手術時間中央値/出血量=296分/30mlであった.CD分類3a以上の合併症はストマ周囲膿瘍を1例に認めたが,縫合不全は認めなかった.術後在院期間の中央値は10日だった.病理所見は全てypStageIだった.
【結語】
早期下部直腸癌に対しるTNTは安全に施行可能だった.適切な症例選択と治療効果判定とフォローアップを行うことで,W&Wは治療の選択肢となりえる.今後さらに症例を蓄積し,根治性と日常生活を考慮した治療選択を検討する.