講演情報

[R12-6]下部進行直腸癌術前放射線治療症例に対する組織学的治療効果判定基準の比較

福井 雄大1, 前田 裕介1, 工藤 仁孝2, 三浦 康朗2, 平松 康輔1, 花岡 裕1, 戸田 重夫1, 上野 雅資1, 的場 周一郎1, 高澤 豊2, 黒柳 洋弥1 (1.虎の門病院消化器外科, 2.虎の門病院病理診断科)
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【背景】
欧米に倣って本邦でも下部進行直腸癌に対して局所制御率や肛門温存率の向上を目的に術前放射線治療を行う施設が増加している.術後に切除検体を用いて術前治療に対する組織学的治療効果を評価することができ,大腸癌取扱い規約第9版にもその判定基準(Tumor regression grading:TRG)が記載されている.本邦では同基準(JSCCR)に沿って評価されているが,海外に目を向けるとTRGにはAJCC,MSKCC,RCP,RCRG,Dworak,Mandard,Ryanなど様々な指標があり,国や施設によって用いられる指標が定まっていない.
【目的】
施設ごとに異なるTRGが用いられていることで,研究間の比較が困難になっており,本研究では異なるTRG同士の比較妥当性を検討することを目的とした.
【方法】
2019年1月から2020年12月までに術前放射線治療を受けた下部進行直腸癌患者の病理標本を用いて計4名の外科医および病理医が独立して上記8つの指標に沿ってTRGを評価し,その結果を比較した.評価者間の一致率には重み付けカッパ係数を用いた.
【結果】
本研究には計67例の症例が包含された.各指標の重み付けカッパ係数の平均はJSCCR 0.61,AJCC 0.73,MSKCC 0.77,RCP 0.74,RCRG 0.58,Dworak 0.63,Mandard 0.69,Ryan 0.67であった.
【考察】
本研究においてTRGの診断結果は評価者間で比較的一致していた.また,各TRGの診断結果には一定の相関があり,標準化できる可能性が示唆された.近年では術前放射線治療に化学療法を組み合わせるTotal neoadjuvant therapyという治療戦略も徐々に普及してきており,術前治療後の病理学的治療効果判定はますます重要になると考えられる.今後研究間の比較のためTRGの標準化が望まれるが,これまでに複数のTRGの比較妥当性を検討した研究はなく,本研究がTRG標準化の足がかりとなることが期待される.