講演情報
[R3-6]近赤外蛍光クリップ(ゼオクリップ FS)を用いた術前マーキングの有用性の検討
大谷 裕 (出雲徳洲会病院外科)
【はじめに】腹腔鏡下結腸悪性腫瘍手術の術前評価の際,病変位置の把握は治療戦略上重要であり,元来点墨法やクリップ法が用いられてきた.特に点墨法では,適切な層に墨汁が入らない,漿膜下で墨汁が拡散しすぎて病変の位置把握が困難になる,墨汁によって剥離層の把握が困難になる,墨汁に対する異物反応による炎症性腫瘤形成,点墨手技に関連した穿孔や出血,などの有害事象が発生する可能性が少なからずあった.それに加え,元来医療目的で製造されていない墨汁を用いる事が生体に与える影響は十分に検討されておらず,問題を含むと考えてきた.【目的】これらの問題に対し,昨今頻繁に行われている術中蛍光イメージングを応用することで,点墨の代替法として病変の位置把握が出来るのでは無いかと考え,当院で術前サイトマーキングを行った結腸癌症例9例に対して近赤外蛍光クリップを試用した.【方法】結腸癌の手術前日午後に,下部消化管内視鏡による観察下に病変近傍に近赤外蛍光クリップ(ゼオクリップ FS:ゼオンメディカル社製)を1~2個打鈎し,同時に従来どおり点墨も行ってこれらを術中に評価した.評価方法は術中に腹腔鏡システム(オリンパス社製VISERA ELITE II,30度斜視鏡)を用い,白色光による観察と赤外光(IR)モードによる観察を行ってそれぞれの視認性を確認した.【結果】病変は上行結腸3例,横行結腸4例,S状結腸2例であった.横行結腸とS状結腸の1例で近赤外光が全く確認できない例があり(視認率78%),壁が厚い事や壁に対してクリップが接線方向から打鈎された事が影響した可能性が高いと思われた.また蛍光を観察できた例でも,クリップの打鈎位置や粘膜に対する角度によっては可視可能な蛍光の質に差が生じる可能性があると思われる例を経験した.【結論】近赤外蛍光クリップは,腹腔鏡下結腸切除術の術前点墨の代替法になり得ると考えられたが,視認性にはまだ問題があり至適処置方法を見出すために今後も同様の症例を集積して検討し,最終的には点墨を一切フリーにできる事を目標としたい.同様の本邦報告例との比較とともに当科で経験した例につきその概要を報告する.